文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

古川日出男『サウンドトラック』

古川日出男

サウンドトラック』 集英社文庫

 

古川日出男の『サウンドトラック』を読了しました。本書が発表されたのは2003年のことで、これは直木賞候補となった『ベルカ、吠えないのか?』の2年前、三島由紀夫賞を受賞した『LOVE』の3年前に当たる年であり、本書はいわば古川氏の初期の作品といって差し支えないでしょう。著者自身が文庫版のあとがきで「フルカワ紀元」の「ゼロ年」と言い切ってしまう本書は、私がここ数年来何となく気になっている作家・古川日出男氏の原点といえる作品なのかもしれません。

 

幼い頃に東京の離島・小笠原諸島無人島に漂着して、期せずしてサバイバル生活を営むことになったトウタとヒツジコという二人の主人公を核として、少しだけ世界線のずれた近未来的なパラレルワールド・東京を舞台に、身体性を媒介にして幻視された世界の混沌と崩壊が疾走感のあるフレーズで描かれています。もっと若い頃に読んでいれば感想も違ったのかもしれませんが、少なくとも今の私では受け止めきることができない、消化不良なものがたくさん残る読書となりました。

 

【満足度】★★★☆☆