文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ジョゼ・サラマーゴ『あらゆる名前』

ジョゼ・サラマーゴ 星野祐子訳

『あらゆる名前』 彩流社

 

ジョゼ・サラマーゴ(192-2010)の『あらゆる名前』を読了しました。本書はポルトガルの作家サラマーゴが1997年に発表した作品で、私がこれまでに読んだことのある『白の闇』(1995年)、そして『見知らぬ島への扉』(1997年)とほぼ同時期に刊行されたもののようです。本書の主人公は「戸籍管理局」に勤める役人で、ある日にふと目に留まった36歳の女性の帳票に自分でも理由がわからぬまま心を奪われ、そこに異常な執着を覚えていく様が描かれます。

 

カフカ的な官僚システムを思わせる無機質な戸籍管理局の様子や、本来は取るに足らないはずの人物の戸籍にその無名性の故に引き込まれていくという不合理な情念は、「本来であれば」文学的な情緒を誘うものではあるはずなのですが、なぜだか私は本書を面白く読むことができませんでした。読書のタイミングの問題なのかもしれませんが、過去のサラマーゴ作品の感想を読み返してみるにつけ、これは作家との相性の問題なのかもしれないとも思わされます。

 

【満足度】★★☆☆☆