文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

J・M・クッツェー『イエスの学校時代』

J・M・クッツェー 鴻巣友季子

『イエスの学校時代』 早川書房

 

J・M・クッツェー(1940-)の『イエスの学校時代』を読了しました。本書は『イエスの幼子時代』の続編で、最終的には三部作として予定されている作品です。スペイン語公用語として話される架空の土地を舞台に、奇妙な「家族関係」が描かれた作品です。

 

役所の手から逃れるようにして新天地へと赴いたシモンとイネス、そして6歳になるダビード(と犬のボリバル)ですが、その地には学校教育を受けるための機関が音楽アカデミーとダンスアカデミーしかありません。ダビードが入学するのはダンスアカデミーなのですが、そこでは古代のピュタゴラス教団を思わせる音楽思想が教えられています。そしてドミトリーという『カラマーゾフの兄弟』を思わせる人物が「ある事件」を引き起こして、物語は大きく展開していきます。

 

不思議な奥行きのある作品で、相変わらずのダビードの子どもらしい(あるいは子どもらしくない)混乱ぶりや、ドミトリーが事件を通じて問いかけてくる倫理的問題など、読みどころは多いのですが、何よりもシモンの哀切さが目に付く作品です。この物語はどんな着地を迎えることになるのか、三部作の最終作品を待ちたいと思います。

 

【満足度】★★★★☆