文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

マリオ・バルガス=リョサ『チボの狂宴』

マリオ・バルガス=リョサ 八重樫克彦・八重樫由貴子訳

『チボの狂宴』 作品社

 

マリオ・バルガス=リョサ(1936-)の『チボの狂宴』を読了しました。ドミニカ共和国で長年にわたって独裁者として君臨したトゥルヒーリョをテーマに取り上げたバルガス=リョサの力作です。トゥルヒーリョ(トルヒーヨ)を題材とした文学作品は数多く、私が読んだことのある作品だけでもガルシア=マルケスの『族長の秋』やジュノ・ディアスの『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』などが挙げられ、彼の南米世界におけるある種の影響力というものを感じさせられます。

 

本書では、トゥルヒーリョの腹心であった官僚の娘、独裁者であるトゥルヒーリョ自身、そしてトゥルヒーリョ暗殺に関わるメンバーたちという三者の視点を交互に入れ替えながら、また過去から現在への時制を自由に行き来しながら、トゥルヒーリョの暗殺計画と現代まで続く独裁政治の傷跡が描かれていきます。最近読んだ『犬を愛した男』も本書と似たような構成だったことが思い出されるのですが、あるいは本書の影響を受けているのかもしれません。本書の主人公の一人であるウラニアに訪れる悲劇の描き方については、少し引っかかりを覚えてしまう部分もあるのですが、さすがの筆力を感じさせられる作品でした。

 

【満足度】★★★★☆