『人生のちょっとした煩い』 文春文庫
グレイス・ペイリー(1922-2007)の『人生のちょっとした煩い』を読了しました。村上春樹氏によって『最後の瞬間のすごく大きな変化』に続いて日本語に翻訳されることになった短編集ですが、原書の発表順は本書の方が先立ったとのこと。ペイリーのデビュー作も収録された第一短編集です。原題は“The Little Disturbances of Man”。
『最後の瞬間のすごく大きな変化』が翻訳刊行された当時にそれを読んだ記憶があって、そのときはやけに引っ掛かりの多い文章を書く作家だなという印象があったのですが、本書に収録された作品の文章は比較的するりと飲み込むことができました。
私と出会ったとき、彼女は林から出てきて、父親の家の屋根裏で横になったところだった。彼女は軍用簡易寝台に横になり、枕に頭を載せることもなく、煙草をまっすぐ天井に向けて、吸っていた。煙が夢見る漏斗のようなかたちで立ち上っていた。煙草の灰はそっと彼女の胸に落ちた。その胸は膨らんでからまだ間もなく、ダクロンとエジプト綿に包まれ、世評が高まるのを待っているところだった。
ペイリーは2007年に亡くなっており、残された第三の短編集も村上氏による翻訳刊行が終わり、文庫化されています。
【満足度】★★★☆☆