『カナダ金貨の謎』 講談社文庫
有栖川有栖の『カナダ金貨の謎』を読了しました。ドラマシリーズ「刑事コロンボ」などでもお馴染みのミステリー作品の形式の一つである倒叙物の表題作をはじめとして、作者らしい本格ミステリが並ぶ短編集です。
【満足度】★★★☆☆
阿部和重の『インディヴィジュアル・プロジェクション』を読了しました。学生時代に読んで以来のことなので、何年ぶりになるのでしょうか。スパイ私塾に所属した過去を持つオブセッションに囚われた青年の一人称で語られる物語は、新しい日本文学の息吹を感じさせられるものでした。東浩紀氏による解説も秀逸です。
【満足度】★★★☆☆
『クララとお日さま』 早川書房
カズオ・イシグロの『クララとお日さま』を読了しました。原題は“Klara and the Sun”です。ノーベル文学賞受賞第一作と謳われる本書のテーマは「AI」で、同じく現代イギリスを代表する作家のひとりであるイアン・マキューアンの近作『恋するアダム』と読み比べてみると、それぞれの作家の個性を感じることができるかもしれません。
本書の主人公は人工知能を搭載したロボットであるクララで、作中では「AF」(“Artificial Friend”の略語だと思いますが)と称されています。ショーウィンドウで来るべき「お友だち」を待つクララは、やがて病弱な少女ジョジーとその母親の家族へと引き取られます。その後の展開についてここで語ることは止めておこうと思いますが、イシグロらしい抑制(というより省略)の効いた筆致と感動的なストーリーラインは健在です。
この物語の中でクララが持ち得たものはどれも人間存在にとって本質的と考えられるものばかりであり、逆にクララが決して手にすることができなかったものは、どれも人間の本質には不要なものばかり、という逆説的な事態が浮かび上がってくるようで、なかなかに考えさせられてしまいます。
【満足度】★★★★☆