文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

有栖川有栖『カナダ金貨の謎』

有栖川有栖

『カナダ金貨の謎』 講談社文庫

 

有栖川有栖の『カナダ金貨の謎』を読了しました。ドラマシリーズ「刑事コロンボ」などでもお馴染みのミステリー作品の形式の一つである倒叙物の表題作をはじめとして、作者らしい本格ミステリが並ぶ短編集です。

 

【満足度】★★★☆☆

阿部和重『インディヴィジュアル・プロジェクション』

阿部和重

インディヴィジュアル・プロジェクション』 新潮文庫

 

阿部和重の『インディヴィジュアル・プロジェクション』を読了しました。学生時代に読んで以来のことなので、何年ぶりになるのでしょうか。スパイ私塾に所属した過去を持つオブセッションに囚われた青年の一人称で語られる物語は、新しい日本文学の息吹を感じさせられるものでした。東浩紀氏による解説も秀逸です。

 

【満足度】★★★☆☆

J・S・ミル『功利主義』

J・S・ミル 関口正司訳

功利主義』 岩波文庫

 

J・S・ミル(1806-1873)の『功利主義』を読了しました。政治哲学や論理学の分野で歴史に名を残すミルですが、ベンサムが創出した功利主義の論者としてもよく知られています。ミルが功利主義をどのように擁護しようとしたかについては、本書を読むことでよく理解することができます。

 

【満足度】★★★☆☆

カズオ・イシグロ『クララとお日さま』

カズオ・イシグロ 土屋政雄

『クララとお日さま』 早川書房

 

カズオ・イシグロの『クララとお日さま』を読了しました。原題は“Klara and the Sun”です。ノーベル文学賞受賞第一作と謳われる本書のテーマは「AI」で、同じく現代イギリスを代表する作家のひとりであるイアン・マキューアンの近作『恋するアダム』と読み比べてみると、それぞれの作家の個性を感じることができるかもしれません。

 

本書の主人公は人工知能を搭載したロボットであるクララで、作中では「AF」(“Artificial Friend”の略語だと思いますが)と称されています。ショーウィンドウで来るべき「お友だち」を待つクララは、やがて病弱な少女ジョジーとその母親の家族へと引き取られます。その後の展開についてここで語ることは止めておこうと思いますが、イシグロらしい抑制(というより省略)の効いた筆致と感動的なストーリーラインは健在です。

 

この物語の中でクララが持ち得たものはどれも人間存在にとって本質的と考えられるものばかりであり、逆にクララが決して手にすることができなかったものは、どれも人間の本質には不要なものばかり、という逆説的な事態が浮かび上がってくるようで、なかなかに考えさせられてしまいます。

 

【満足度】★★★★☆

村田沙耶香『殺人出産』

村田沙耶香

『殺人出産』 講談社文庫

 

村田沙耶香の『殺人出産』を読了しました。村田氏は恐ろしくも新しい世界を小説として表現することのできる異能の作家だと思っているのですが、本書についてもその評価は間違いなく当てはまると言っていいでしょう。10人の子どもを出産することで1人殺せる「殺人出産システム」が制度化された社会のなかで、10人の子どもを産んだ姉とその妹が見ることになる風景とは。

 

【満足度】★★★☆☆

フランク・マコート『アンジェラの灰』

フランク・マコート 土屋政雄

『アンジェラの灰』 新潮文庫

 

フランク・マコート(1930-2009)の『アンジェラの灰』を読了しました。アイルランドアメリカ人であるマコートが、アイルランドのリムリックで過ごした少年時代を回想して描いた自伝的小説(「回想録」という言い方がなされていますが)です。ピュリッツァー賞を受賞しています。

 

正直なところ、この作品を楽しむための勘所をうまく掴めないままに終わってしまった消化不良の読書体験でした。

 

【満足度】★★☆☆☆

マイクル・コナリー『レイトショー』

マイクル・コナリー 古沢嘉通

『レイトショー』 講談社文庫

 

 マイクル・コナリーの『レイトショー』を読了しました。マイケル・ボッシュを主人公とする一連のシリーズで知られるコナリーですが、今回の作品はロス市警に勤める女性刑事レネイ・バラードを主人公とする新しいシリーズの第一作とされています。いろいろと時代の移り変わりというか、変化を感じられたというのが率直な感想です。

 

【満足度】★★★☆☆