文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

吉村達也『鳥啼村の惨劇』

吉村達也

『鳥啼村の惨劇』 徳間文庫

 

吉村達也の『鳥啼村の惨劇』を読了しました。「惨劇の村五部作」の第二作目にあたる作品で、事件の舞台となる架空の「村」の所在場所として設定されているのは、東京都の青ヶ島という実在の島です。GoogleMapなどによって見知らぬ土地の風景にいともたやすくアクセスできるという体験は、その容易さゆえにいささか興ざめな部分はあるにせよ、それを補うだけの旅への郷愁を感じさせてくれます。小説を読みながら、現実としては訪れがたい島への旅を夢想するのでした。

 

【満足度】★★★☆☆

吉村達也『花咲村の惨劇』

吉村達也

『花咲村の惨劇』 徳間文庫

 

吉村達也の『花咲村の惨劇』を読了しました。「五部作」と銘打たれたシリーズ企画の第一作目にあたるのが本書で、新基軸を打ち出そうとする作者の本領がいかんなく発揮された作品です。ミステリーとして見たときに、単体作品としてはインパクトに欠ける部分があるというのが、かつての感想だったのですが、今回あらためて読み直してみると、一作ごとにミステリーとしてのテーマを持って書かれていることがよく解ります。

 

【満足度】★★★☆☆

リチャード・パワーズ『黄金虫変奏曲』

リチャード・パワーズ 森慎一郎・若島正

『黄金虫変奏曲』 みすず書房

 

リチャード・パワーズ(1957-)の『黄金虫変奏曲』を読了しました。1985年に『舞踏会へ向かう三人の農夫』でデビューしたパワーズが、1991年に発表した第三作目にあたる小説が本書です。DNAの二重螺旋に秘められた暗号解読を巡る冒険と、バッハによる二段の手鍵盤のチェンバロのための変奏曲、そして二組の男女の物語が重ね合わされた長大な作品です。いささか長大すぎて、読書の途中で私の意識がかなりダレてしまったことは否めません。図書館のレファレンスコーナーでのエピソードなど、作者の博学をエレガントに小説に落とし込むための絶好の手法だと思うのですが。

 

ピンチョンの小説が持つ重厚長大さの通奏低音としてブルースが響いているのだとすれば、パワーズの小説にはクラシックが流れているようで、私自身が少し肌が合わないと感じてしまうのはそんなところに理由があるのかもしれません。この良く出来た作品を余すことなく理解したときに得られる喜びというものがあるのだと思いますが、なかなかそこに至れないことに忸怩たる思いがあります。

 

【満足度】★★★☆☆

赤川次郎『三毛猫ホームズの狂死曲』

赤川次郎

三毛猫ホームズの狂死曲』 角川文庫

 

赤川次郎の『三毛猫ホームズの狂死曲』を読了しました。作者のクラシック音楽への愛情が良いかたちで作品に反映されていて、ミステリーとしての本筋のプロットには若干粗い部分が見られるものの、作品全体としてはよくまとまっていて、読ませる作品になっていると思います。本作のヒロイン役を務める女性は、たしか後の作品にも登場していたと思うのですが、シリーズ作品の中にあっても印象に残る一作です。

 

【満足度】★★★☆☆

吉村達也『「北斗の星」殺人事件』

吉村達也

『「北斗の星」殺人事件』 徳間文庫

 

吉村達也の『「北斗の星」殺人事件』を読了しました。物語のプロットにはやや強引に組み込まれているように思われる寝台特急北斗星」のエピソードについても、「取材に行ったから無理に物語と接続したのだろう」というシニカルな見方ではなく、何となく作者のサービス精神の発露のように思われてしまうのは、私自身の感じる作品に対する愛着と贔屓目に原因があるのでしょう。ミステリーとしては、過剰なものがギリギリのバランスで何とかまとまっているという印象で、その危うさが魅力にもなっていると思います。

 

【満足度】★★★☆☆

有栖川有栖『46番目の密室』

有栖川有栖

『46番目の密室』 講談社文庫

 

有栖川有栖の『46番目の密室』を読了しました。「臨床犯罪学者」である火村英生を探偵役とするシリーズ作品の第一作目にあたるのが本書です。後の作品と比べて、探偵役の印象(とりわけ冒頭の教室での講義風景など)が若干異なるのはご愛嬌といったところでしょうか。

 

【満足度】★★★☆☆

吉村達也『やさしく殺して』

吉村達也

『やさしく殺して』 集英社文庫

 

吉村達也の『やさしく殺して』を読了しました。作者のカテゴライズでは、本書は「サスペンス」に分類されるようなのですが、その定義は「怖いけれども、ページの先を読むのに怖すぎはしない展開の読み物」とのこと。その定義の是非はさておき、本書は不思議な読み心地の作品で、これまでに読んだことのある作者の小説のいずれとも異なっているように思われます。トリッキーな設定のミステリーとは異なるホラー小説を量産し始めた頃から、私は徐々に氏の作品から離れてしまったのですが、そのせいでそのように感じるのかもしれません。

 

【満足度】★★★☆☆