文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

2019-08-01から1ヶ月間の記事一覧

コルム・トビーン『マリアが語り遺したこと』

コルム・トビーン 栩木伸明訳 『マリアが語り遺したこと』 新潮社 コルム・トビーン(1955-)の『マリアが語り遺したこと』を読了しました。著者はアイルランド出身のジャーナリスト・作家で、現在ではアメリカの大学で創作を教えているそうです。本書は中編…

德永恂『現代思想の断層―「神なき時代」の模索』

德永恂 『現代思想の断層―「神なき時代」の模索』 岩波新書 德永恂の『現代思想の断層―「神なき時代」の模索』を読了しました。閉店してしまう近所の本屋でセール販売されていたのを手に取ったのが、本書購入のきっかけです。岩波書店の本はこういうときに、…

トーマス・マン『トーニオ・クレーガー 他一篇』

トーマス・マン 平野卿子訳 『トーニオ・クレーガー』 河出文庫 トーマス・マン(1875-1955)の『トーニオ・クレーガー 他一篇』を読了しました。本作は高校時代に読んだような記憶があるのですが、あまり確かなところは覚えていません。大学時代にもたしか…

イアン・マキューアン『甘美なる作戦』

イアン・マキューアン 村松潔訳 『甘美なる作戦』 新潮社 イアン・マキューアン(1948-)の『甘美なる作戦』を読了しました。原題は“Sweet Tooth”で直訳すれば「甘い歯」ですが、「甘党」というような意味で使われるようです。イギリスの情報機関「MI5」を舞…

カズオ・イシグロ『充たされざる者』

カズオ・イシグロ 古賀林幸訳 『充たされざる者』 ハヤカワ文庫 カズオ・イシグロ(1954-)の『充たされざる者』を読了しました。本書は彼の長編第四作目にあたる作品で、彼が現在までに発表している長編小説で未読だったのは本書だけです。『日の名残り』に…

サド『短編集 恋の罪』

サド 植田祐次訳 『短編集 恋の罪』 岩波文庫 サド(1740-1814)の『短編集 恋の罪』を読了しました。「サディズム」という言葉の由来となったといわれているフランス貴族、マルキ・ド・サドの短編選集です。本書カバーに描かれた解説によれば、本作に収録さ…

伊勢田哲治『哲学思考トレーニング』

伊勢田哲治 『哲学思考トレーニング』 ちくま新書 伊勢田哲治の『哲学思考トレーニング』を読了しました。本書はいわゆるクリティカルシンキングのスキルについて書かれた本なのですが、そのスキルは著者自身が専門とする哲学・科学哲学・倫理学の思考法をも…

ホセ・ドノソ『夜のみだらな鳥』

ホセ・ドノソ 鼓直訳 『夜のみだらな鳥』 水声社 ホセ・ドノソ(1924-1996)の『夜のみだらな鳥』を読了しました。いわゆるラテンアメリカ文学「ブーム」の作家のひとりで、近年は特に評価の高いのが、チリの作家であるホセ・ドノソです。本書はドノソの代表…

細見和之『現代思想の冒険者たち 第15巻 アドルノ―非同一性の哲学』

細見和之 『現代思想の冒険者たち 第15巻 アドルノ―非同一性の哲学』 講談社 細見和之の『現代思想の冒険者たち 第15巻 アドルノ―非同一性の哲学』を読了しました。大学時代に一度読んだような気もするのですが、今回あらためて再読に近いかたちで読み直して…

ポール・オースター、J・M・クッツェー『ヒア・アンド・ナウ 往復書簡 2008-2011』

ポール・オースター、J・M・クッツェー くぼたのぞみ・山崎暁子訳 『ヒア・アンド・ナウ 往復書簡 2008-2011』 岩波書店 ポール・オースターとJ・M・クッツェーの間で取り交わされた書簡集である『ヒア・アンド・ナウ 往復書簡 2008-2011』を読了しました。…

カルロ・レーヴィ『キリストはエボリで止まった』

カルロ・レーヴィ 竹山博英訳 『キリストはエボリで止まった』 岩波文庫 カルロ・レーヴィ(1902-1975)の『キリストはエボリで止まった』を読了しました。イタリアの政治活動家であるレーヴィが、反ファシスト活動の末に南イタリアの僻地に流刑され過ごした…

パトリック・モディアノ『さびしい宝石』

パトリック・モディアノ 白井成雄訳 『さびしい宝石』 作品社 パトリック・モディアノ(1945-)の『さびしい宝石』を読了しました。原題は“La petite bijou”で直訳だと「小さな宝石」となります。モディアノはナチス占領下時代のパリ(のみ)を舞台に作品を…

信原幸弘『心の現代哲学』

信原幸弘 『心の現代哲学』 勁草書房 信原幸弘の『心の現代哲学』を読了しました。本書の出版は1999年で、今からちょうど20年前のこととなります。「心とはいかなるものか」という問いに対して、認知科学や脳神経科学などの成果に寄り添うかたちで語ろうとす…

ドン・デリーロ『ポイント・オメガ』

ドン・デリーロ 都甲幸治訳 『ポイント・オメガ』 水声社 ドン・デリーロ(1936-)の『ポイント・オメガ』を読了しました。本文にして150ページ足らずの中編作品で、美術館(ニューヨーク近代美術館なのでしょう)とカリフォルニア州サンディエゴの砂漠とい…

ジュンパ・ラヒリ『低地』

ジュンパ・ラヒリ 小川高義訳 『低地』 新潮社 ジュンパ・ラヒリ(1967-)の『低地』を読了しました。インド・カルカッタ出身の両親のもとで生まれてアメリカで生まれ育ったラヒリが、「故郷」であるカルカッタ出身の兄弟をめぐる人生模様を描いた長編作品で…

マキシーン・ホン・キングストン『チャイナ・メン』

マキシーン・ホン・キングストン 藤本和子訳 『チャイナ・メン』 新潮文庫 マキシーン・ホン・キングストン(1940-)の『チャイナ・メン』を読了しました。本書は「村上柴田翻訳堂」の一冊として、1983年に晶文社より出版された翻訳を改題の上、刊行されたも…

島田荘司『鳥居の密室 世界にただひとりのサンタクロース』

島田荘司 『鳥居の密室 世界にただひとりのサンタクロース』 新潮社 島田荘司の『鳥居の密室 世界にただひとりのサンタクロース』を読了しました。島田さんの小説作品はほとんど読んでいて、その文体も含めて好きな作家ではあるのですが、近年は会話の流れの…

ポール・オースター『消失 ポール・オースター詩集』

ポール・オースター 飯野友幸訳 『消失 ポール・オースター詩集』 思潮社 『消失 ポール・オースター詩集』を読了しました。彼が小説を書き始める以前の時期に著されたという詩群の選集です。象徴的な言葉でもって生の倦怠とその中で生まれる煌めきを捉えよ…

アンドレ・ジイド『贋金つくり』

アンドレ・ジイド 川口篤訳 『贋金つくり』 岩波文庫 アンドレ・ジイド(1869-1951)の『贋金つくり』を読了しました。ジッド(という表記の方がなじみがあるのでこうしますが)といえば『狭き門』など、思想的な清貧を前面に出した作風という勝手な思い込み…

『フィッツジェラルド短編集』

佐伯泰樹編訳 『フィッツジェラルド短編集』 岩波文庫 『フィッツジェラルド短編集』を読了しました。F・スコット・フィッツジェラルド(1896-1940)の短い生涯のうちに書かれた短編作品の中から、本書は訳者あとがきによると「短編集の決定版を編むつもりで…

冨田恭彦『デカルト入門講義』

冨田恭彦 『デカルト入門講義』 ちくま学芸文庫 冨田恭彦の『デカルト入門講義』を読了しました。冨田氏独自の近世哲学の読みというものは背景に退いて、デカルト哲学のオーソドックスな解説書という印象の作品でした。「観念」という用語の解説や歴史的な位…

エドモン・ロスタン『シラノ・ド・ベルジュラック』

エドモン・ロスタン 辰野隆・鈴木信太郎訳 『シラノ・ド・ベルジュラック』 岩波文庫 エドモン・ロスタン(1868-1918)の『シラノ・ド・ベルジュラック』を読了しました。パリ中を興奮させたといわれる初演から始まって、世界各国で繰り返し上演されている大…

シャルル・ペロー『眠れる森の美女』

シャルル・ペロー 村松潔訳 『眠れる森の美女』 新潮文庫 シャルル・ペロー(1628-1703)の『眠れる森の美女』を読了しました。表題作である「眠れる森の美女」、「赤頭巾ちゃん」、「青ひげ」、「サンドリヨンまたは小さなガラスの靴」(シンデレラ)など、…

小林道夫『デカルト入門』

小林道夫 『デカルト入門』 ちくま新書 小林道夫の『デカルト入門』を読了しました。新書という形態を意識してのことだと思いますが、本書はあとがきを含めても全体で220ページ程度のコンパクトな構成になっています。その分量のなかで、デカルトの生涯、形…

アーウィン・ショー『夏服を着た女たち』

アーウィン・ショー 常盤新平訳 『夏服を着た女たち』 講談社文庫 アーウィン・ショー(1913-1984)の『夏服を着た女たち』を読了しました。本作の邦訳が講談社から出版されたのは1979年のことで、私の手元にある講談社文庫の初版はその5年である1984年に出…

ウラジミール・ナボコフ『処刑への誘い 戯曲 事件 ワルツの発明』

ウラジミール・ナボコフ 小西昌隆・毛利久美・沼野充義役 『処刑への誘い 戯曲 事件 ワルツの発明』 新潮社 ウラジミール・ナボコフ(1899-1977)の『処刑への誘い 戯曲 事件 ワルツの発明』を読了しました。新潮社から刊行されている「ナボコフ・コレクショ…

竹内外史『新装版 集合とはなにか はじめて学ぶ人のために』

竹内外史 『新装版 集合とはなにか はじめて学ぶ人のために』 講談社ブルーバックス 竹内外史の『新装版 集合とはなにか はじめて学ぶ人のために』を読了しました。現代数学の基礎部分をなしているといえる集合論について、数学者が一般向けに解説した本です…

J・M・クッツェー『遅い男』

J・M・クッツェー 鴻巣友季子訳 『遅い男』 早川書房 J・M・クッツェー(1940-)の『遅い男』を読了しました。これまでどの作品を読んでも面白く感動できた作家というのは数少ないのですが、クッツェーは私にとってそんな稀有な作家のひとりです。本書は2003…

本谷有希子『異類婚姻譚』

本谷有希子 『異類婚姻譚』 講談社 本谷有希子の『異類婚姻譚』を読了しました。第154回芥川賞受賞作である本書は「結婚」、そして「夫婦」というものに潜む違和感を題材としています。「夫婦は互いに似てくる」という、比較的多くの文脈においては美談のよ…

川本隆史『現代思想の冒険者たち 第23巻 ロールズ―正義の原理』

川本隆史 『現代思想の冒険者たち 第23巻 ロールズ―正義の原理』 講談社 川本隆史『現代思想の冒険者たち 第23巻 ロールズ―正義の原理』を読了しました。20世紀以降の倫理学の学び直しを計画していて、その取っ掛かりとしてロールズの『正義論』を読みたいと…