2019-01-01から1年間の記事一覧
ナーダシュ・ペーテル 早稲田みか・簗瀬さやか訳 『ある一族の物語の終わり』 松籟社 ナーダシュ・ペーテル(1942-)の『ある一族の物語の終わり』を読了しました。何となく不思議なタイトルですが、原題は“Egy családregény vége”で、英訳では“The End Of A…
マイケル・ポランニー 高橋勇夫訳 『暗黙知の次元』 ちくま学芸文庫 マイケル・ポランニー(1891-1976)の『暗黙知の次元』を読了しました。ハンガリー生まれの医学者であり科学哲学者であるポランニーが、明示的な知識(たとえば「Sはpである」と命題化する…
ウラジーミル・ソローキン 望月哲男・松下隆志訳 『青い脂』 河出文庫 ウラジーミル・ソローキン(1955-)の『青い脂』を読了しました。ソローキンの作品を読むのも、現代ロシア文学(本書の原著が出版されたのは1999年のこと)に触れるのも、今回が初めての…
津田敏秀 『医学と仮説 原因と結果の科学を考える』 岩波書店 津田敏秀の『医学と仮説 原因と結果の科学を考える』を読了しました。同じ著者の『医学的根拠とは何か』よりも前に発表されたのが本書で、力点は多少異なりながら、本書においても疫学的なアプロ…
サマセット・モーム 金原端人訳 『ジゴロとジゴレット モーム傑作選』 新潮文庫 サマセット・モーム(1874-1965)の『ジゴロとジゴレット モーム傑作選』を読了しました。訳者あとがきによるとモーパッサンをお手本にしたというモームの短編集ですが、本書に…
村上龍 『海の向こうで戦争が始まる』 講談社文庫 村上龍の『海の向こうで戦争が始まる』を読了しました。本書は村上龍の小説第二作目で、作者自身が本書の「あとがき」で、バーで出会ったリチャード・ブローティガンからの言葉として(この挿話自体がフィク…
津田敏秀 『医学的根拠とは何か』 岩波新書 津田敏秀の『医学的根拠とは何か』を読了しました。疫学を専門とする医学者による「医学的根拠」とは何かを巡る論説です。医学者(医師)を「直観派」、「メカニズム派」、「数量化派」に分類するところは解りやす…
筒井康隆 『農協月へ行く』 角川文庫 筒井康隆の『農協月へ行く』を読了しました。表題作のほか、「日本以外全部沈没」などの作品が収録されています。昔に読んだことがあるような、ないような、記憶が曖昧なのですが、エロ・グロ・風刺・タブーをものともし…
G・ライル 坂本百大・井上治子・服部裕幸訳 『心の概念』 みすず書房 G・ライル(1900-1976)の『心の概念』を読了しました。ライルがデカルトの神話と呼ぶ「機械の中の幽霊」やカテゴリーミステイクの議論によって、哲学史上あまりにも有名な本書ですが、ま…
トマス・ピンチョン 佐藤良明訳 『スロー・ラーナー』 新潮社 トマス・ピンチョンの『スロー・ラーナー』を読了しました。寡作の覆面作家ピンチョンがこれまでに発表した唯一の短編集です。「思い出せる限りでいうと」と煙に巻く言葉を枕詞にしながらも、本…
ミシェル・ウエルベック 中村佳子訳 『闘争領域の拡大』 河出文庫 ミシェル・ウエルベック(1958-)の『闘争領域の拡大』を読了しました。奇妙なタイトルを持つ本書はウエルベックが初めて発表した小説で、どちらかというと中編小説というべき長さの作品です…
レイモンド・カーヴァー 村上春樹訳 『必要になったら電話をかけて』 中央公論新社 レイモンド・カーヴァー(1938-1988)の『必要になったら電話をかけて』を読了しました。読み進めてきたカーヴァー全集も本書で八巻目、完結となりました。本書にはカーヴァ…
バルガス=リョサ 旦敬介訳 『ラ・カテドラルでの対話』 岩波文庫 バルガス=リョサの『ラ・カテドラルでの対話』を読了しました。『都会と犬ども』、『緑の家』に続くバルガス=リョサの第三作目の長編作品です。「これまでに書いたすべての作品の中から一…
パヴェーゼ 河島英昭訳 『美しい夏』 岩波文庫 パヴェーゼ(1908-1952)の『美しい夏』を読了しました。本書はイタリアの夭折作家、チェーザレ・パヴェーゼが1948年に発表した作品で(実際は1940年頃に既に執筆されていたようですが)、1950年にイタリア最高…
アドルノ 古賀徹・細見和之訳 『認識論のメタクリティーク』 法政大学出版局 アドルノ(1903-1969)の『認識論のメタクリティーク』を読了しました。啓蒙主義を批判するフランクフルト学派の中心人物であるアドルノによるフッサール哲学の批判の書です。「フ…
常盤新平他訳 『ニューヨーカー短編集 Ⅰ』 早川書房 『ニューヨーカー短編集 Ⅰ』を読了しました。非常におもしろく読むことができた『ベスト・ストーリーズ』の本家ともいえるのが、同じく早川書房から1969年に出版されていた本書です。近所の古本屋で捨て値…
中谷宇吉郎 『科学の方法』 岩波新書 中谷宇吉郎の『科学の方法』を読了しました。1958年に初版が発行されていますが、今の時代に読んでも大変面白い本だと思います。いうなれば、科学者の書いた科学哲学の本とでもいうべきもので、科学とはどのようなものか…
中村紘一・佐々木徹・若島正訳 『エドマンド・ウィルソン批評集2 文学』 みすず書房 『エドマンド・ウィルソン批評集2 文学』を読了しました。本書に収録された「ヘンリー・ジェイムズの曖昧性」は、ヘンリー・ジェイムズの『ねじの回転』を対象として家庭教…
パスカル 塩川徹也訳 『パンセ』 岩波文庫 パスカル(1623-1662)の『パンセ』を読了しました。以前に私が『パンセ』を読んだのは中公文庫の訳で、たしかブランシュヴィック版をもとにした翻訳だったと思います。未完の著作というよりは後世の人間が集積した…
児玉聡 『功利主義入門―はじめての倫理学』 ちくま新書 児玉聡の『功利主義入門―はじめての倫理学』を読了しました。功利主義を主軸に据えた倫理学の入門書です。功利主義への偏見に満ちた非難は一種のわら人形攻撃であるとして、著者はバランスの取れた功利…
J・アップダイク 井上謙治訳 『帰ってきたウサギ』 新潮社 J・アップダイク(1932-2009)の『帰ってきたウサギ』を読了しました。高校時代はバスケットボールの花形選手だった「ウサギ」ことハリー・アングストロームは、前作『走れウサギ』から10歳年をとっ…
横山秀夫 『ノースライト』 新潮社 横山秀夫の『ノースライト』を読了しました。2012年に発表された『64』も久しぶりの作品となりましたが、今年発表された本作もそれから実に9年ぶりの作品となります。もっとも本作は2004年から2006年に一度雑誌連載されて…
中村紘一・佐々木徹訳 『エドマンド・ウィルソン批評集1 社会・文明』みすず書房 『エドマンド・ウィルソン批評集1 社会・文明』を読了しました。エドマンド・ウィルソン(1895-1972)は20世紀を代表するアメリカの文芸批評家です。本作はジャーナリストの視…
トルストイ 中村融訳 『人生論』 岩波文庫 トルストイ(1828-1910)の『人生論』を読了しました。本書は、トルストイがある出版社の記者をしていたという女性から送られてきた手紙に返書するかたちで書き始められたものだといいます。1886年に書かれたという…
ジャック・ロンドン 白石佑光訳 『白い牙』 新潮文庫 ジャック・ロンドン(1876-1916)の『白い牙』を読了しました。ホワイト・ファングと呼ばれるオオカミの姿を描いた「動物小説」です。乾いた文体は野生の血が知らせる「掟」の存在をうまく描けていると思…
大江健三郎 『あいまいな日本の私』 岩波新書 大江健三郎の『あいまいな日本の私』を読了しました。本書には1994年のノーベル文学賞受賞時の記念講演をはじめ、新聞社主催の医療フォーラム、コンサートホール、井伏鱒二さんを偲ぶ会など、全部で9編の講演が…
ジュリー・オオツカ 岩本正恵 小竹由美子 訳 『屋根裏の仏さま』 新潮社 ジュリー・オオツカの『屋根裏の仏さま』を読了しました。一人称複数の「わたしたち」の語りが独特で、そこから醸し出される「ひとつの声」の存在が、歴史や物語を紡ぐための装置とし…
ヴァージニア・ウルフ 川本静子訳 『壁のしみ 短編集』 みすず書房 ヴァージニア・ウルフ(1882-1941)の『壁のしみ』を読了しました。「ヴァージニア・ウルフ コレクション」を読むのは本書で四冊目になります。15の短編が収録されており、それらが発表年代…
J・M・G・ル・クレジオ 望月芳郎訳 『大洪水』 河出文庫 J・M・G・ル・クレジオ(1940-)の『大洪水』を読了しました。本書は彼のデビュー作である『調書』以前い書き始められたと言われる初期の長編作品です。「初めに雲があった」という言葉から始まるプロ…
ミランダ・ジュライ 岸本佐知子訳 ブリジット・サイアー 写真 『あなたを選んでくれるもの』 新潮社 ミランダ・ジュライの『あなたを選んでくれるもの』を読了しました。アメリカのパフォーマンスアーティスト・映画監督・作家であるジュライが初小説集『い…