文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

2020-06-01から1ヶ月間の記事一覧

村上春樹『カンガルー日和』

村上春樹 『カンガルー日和』 講談社文庫 村上春樹の『カンガルー日和』を読了しました。初めて読んだのは高校生のときだったでしょうか、そのときには「図書館奇譚」や「あしか祭り」のような寓話性を含んだ作品が印象に残りましたが、今読み返してみると「…

コーマック・マッカーシー『平原の町』

コーマック・マッカーシー 黒原敏行訳 『平原の町』 ハヤカワ文庫 コーマック・マッカーシー(1933-)の『平原の町』を読了しました。『すべての美しい馬』、『越境』に続く「国境三部作」の完結編とでもいうべき作品です。主人公は第一作『すべての美しい馬…

マルクス・ガブリエル『新実存主義』

マルクス・ガブリエル 廣瀬覚訳 『新実存主義』 岩波新書 マルクス・ガブリエルの『新実存主義』を読了しました。「哲学界のロックスター」と奇妙なもてはやされ方をしているマルクス・ガブリエルは、テレビにも登場する現代の哲学者として(哲学という学問…

筒井康隆『創作の極意と掟』

筒井康隆 『創作の極意と掟』 講談社文庫 筒井康隆の『創作の極意と掟』を読了しました。方法論に自覚的な作家(そうでない作家の方が例外的なのかもしれませんが)である筒井氏の創作論、というよりは批評的エッセイが収録されたのが本書です。肩の力が抜け…

ミロラド・パヴィチ『ハザール事典 夢の狩人たちの物語[男性版]』

ミロラド・パヴィチ 工藤幸雄訳 『ハザール事典 夢の狩人たちの物語[男性版]』 創元ライブラリ ミロラド・パヴィチ(1929-2009)の『ハザール事典 夢の狩人たちの物語[男性版]』を読了しました。現在のセルビア・ベオグラードで生まれたパヴィチが書いた…

カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』

カズオ・イシグロ 土屋政雄 『わたしを離さないで』 ハヤカワ文庫 カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』を読了しました。昔ハードカバーで翻訳が出たときに読んで以来、何年ぶりかの再読となりました。当時はミステリーの文脈でも話題になった作品で、…

リチャード・セイラー/キャス・サンスティーン『実践行動経済学 健康、富、幸福への聡明な選択』

リチャード・セイラー/キャス・サンスティーン 遠藤真美訳 『実践行動経済学 健康、富、幸福への聡明な選択』 日経BP社 リチャード・セイラーとキャス・サンスティーンの『実践行動経済学 健康、富、幸福への聡明な選択』を読了しました。本書はノーベル経…

池澤夏樹『スティル・ライフ』

池澤夏樹 『スティル・ライフ』 中公文庫 池澤夏樹の『スティル・ライフ』を読了しました。1988年に芥川賞を受賞した作品です。個人文学全集の編者として、また書評家としての池澤氏については知っているのですが、実際のところ小説を読むのは初めてのことで…

レイモンド・チャンドラー『ロング・グッドバイ』

レイモンド・チャンドラー 村上春樹訳 『ロング・グッドバイ』 ハヤカワ文庫 レイモンド・チャンドラー(1888-1959)の『ロング・グッドバイ』を読了しました。ずっと昔に清水氏の翻訳で読んだことはあったのですが、久しぶりの再読となりました。プロットの…

J・L・オースティン『オースティン哲学論文集』

J・L・オースティン 坂本百大監訳 『オースティン哲学論文集』 勁草書房 J・L・オースティン(1911-1960)『オースティン哲学論文集』を読了しました。発話行為という概念を提唱したイギリス日常言語学派の哲学者、オースティンの論文集です。収録された12の…

『中世イギリス英雄叙事詩 ベーオウルフ』

忍足欣四郎訳 『中世イギリス英雄叙事詩 ベーオウルフ』 岩波文庫 英文学最古の文献(諸説あるようですが本書解説によれば8世紀頃に成立したとされます)といわれることもある『ベーオウルフ』を読了しました。現在のデンマークであるデネの国を舞台として、…

J・アップダイク『金持になったウサギ』

J・アップダイク 井上謙治訳 『金持になったウサギ』 新潮社 J・アップダイク(1932-2009)の『金持になったウサギ』を読了しました。『走れウサギ』(1960)、『帰ってきたウサギ』(1971)に続いて、1981年に発表されたウサギことハリー・アングストローム…

ロック『教育に関する考察』

ロック 服部知文訳 『教育に関する考察』 岩波文庫 ロック(1632-1704)の『教育に関する考察』を読了しました。認識論、道徳論、政治哲学、宗教論など幅広い分野で自身の思想を展開したロックですが、本書においてはその教育論を説いています。ルソーの『エ…

シェイクスピア『ロミオとジュリエット』

シェイクスピア 松岡和子訳 『ロミオとジュリエット』 ちくま文庫 ちくま文庫のシェイクスピア全集2『ロミオとジュリエット』を読了しました。松岡和子さんの訳によるこの全集を順番に読んでいきたいと考えているのですが、読み終えるまでにいつまでかかるで…

アーサー・C・クラーク『2001年宇宙の旅』

アーサー・C・クラーク 伊藤典夫訳 『2001年宇宙の旅』 ハヤカワ文庫 アーサー・C・クラーク(1917-2008)の『2001年宇宙の旅』を読了しました。スタンリー・キューブリックの映画がつとに有名な本作ですが、残念ながら映画を見たことはなく、小説(本書)を…

D・デイヴィドソン『行為と出来事』

D・デイヴィドソン 服部裕幸・柴田正良訳 『行為と出来事』 勁草書房 D・デイヴィドソン(1917-2003)の『行為と出来事』を読了しました。本書はデイヴィッドソンの主として行為論に関わる論文を集めた“Essays on Actions and Events”の抄訳です。どうせなら…

W・G・ゼーバルト『アウステルリッツ』

W・G・ゼーバルト 鈴木仁子訳 『アウステルリッツ』 白水社 W・G・ゼーバルト(1944-2001)の『アウステルリッツ』を読了しました。ずっと読んでみたいと思っていた作品なのですが、このたび新装版が刊行されることになり、嬉しい限りです。 本書の内容をか…

島本理生『リトル・バイ・リトル』

島本理生 『リトル・バイ・リトル』 講談社文庫 島本理生の『リトル・バイ・リトル』を読了しました。同時代の日本人作家の作品にももう少し触れておこうという意図をもって手に取った作品のひとつが本書です。家族や周囲の人々との係わり合いを、瑞々しく柔…

ナボコフ『偉業』

ナボコフ 貝澤哉 『偉業』 光文社古典新訳文庫 ナボコフ(1899-1977)の『偉業』を読了しました。『偉業』はナボコフが1932年にロシア語で発表したいわば初期の長編作品にあたりますが、後年1972年に“Glory(栄光)”というタイトルで、ナボコフの息子ドミト…

星新一『ようこそ地球さん』

星新一 『ようこそ地球さん』 新潮文庫 星新一(1926-1997)の『ようこそ地球さん』を読了しました。本書のあとがきによると、同じく新潮文庫に収められた『ボッコちゃん』が、単行本の『ようこそ地球さん』と『人造美人』からの自選短編といくつかの他の作…

E・フッサール『ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学』

E・フッサール 細谷恒夫・木田元訳 『ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学』 中公文庫 E・フッサール(1859-1938)の『ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学』を読了しました。フッサール最晩年の講義をもとに、未完の末尾に遺稿の一部を付加するかたちで…

ドナルド・デイヴィドソン『真理と解釈』

ドナルド・デイヴィドソン 野本和幸・植木哲也・金子洋之・高橋要 訳 『真理と解釈』 勁草書房 ドナルド・デイヴィドソン(1917-2003)の『真理と解釈』を読了しました。デイヴィドソンは20世紀アメリカの哲学者としては最も有名な論客の一人ですが、主とし…

ハーマン・メルヴィル『幽霊船 他一篇』

ハーマン・メルヴィル 坂下昇訳 『幽霊船 他一篇』 岩波文庫 ハーマン・メルヴィル(1819-1891)の『幽霊船 他一篇』を読了しました。本書には、『白鯨』の作者として知られる、19世紀を代表するアメリカの作家メルヴィルの中篇小説が二作収録されています。…

Richard Wright “Native Son”

Richard Wright “Native Son” Harper Perennial リチャード・ライト(1908-1960)の“Native Son”を読了しました。本書には『アメリカの息子』という1972年にハヤカワ文庫に収められた邦訳がありますが、入手しづらい状況が続いています。現在ではあまり読ま…