文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

2021-01-01から1ヶ月間の記事一覧

ヴァージニア・ウルフ『三ギニー』

ヴァージニア・ウルフ 出淵敬子訳 『三ギニー』 みすず書房 ヴァージニア・ウルフ(1882-1941)の『三ギニー』を読了しました。みすず書房から刊行されている「ヴァージニア・ウルフ コレクション」の最後の一冊です。『自分だけの部屋』と同じく「女性」で…

ハーラン・エリスン『世界の中心で愛を叫んだけもの』

ハーラン・エリスン 浅倉久志・伊藤典夫訳 『世界の中心で愛を叫んだけもの』 ハヤカワ文庫 ハーラン・エリスン(1934-2018)の『世界の中心で愛を叫んだけもの』を読了しました。ヒューゴー賞を受賞した表題作や、映画化もされたという「少年と犬」など、15…

村上春樹『パン屋再襲撃』

村上春樹 『パン屋再襲撃』 文春文庫 村上春樹の『パン屋再襲撃』を読了しました。最初に読んだのは高校時代くらいのことだったか、詳しくは忘れてしまったのですが、久しぶりの再読となりました。収録策の初出は1985年から1986年にかけて、表題作のほか「象…

スティーヴン・キング『幸運の25セント硬貨』

スティーヴン・キング 浅倉久志他訳 『幸運の25セント硬貨』 新潮文庫 スティーヴン・キングの『幸運の25セント硬貨』を読了しました。本書は、キングの14の短編が収録された原著である短編集“Everytihing's Eventual : 14 Dark Tales”の日本語訳の二分冊の…

ディケンズ『デイヴィッド・コパフィールド』

ディケンズ 石塚裕子訳 『デイヴィッド・コパフィールド』 岩波文庫 チャールズ・ディケンズ(1812-1870)の『デイヴィッド・コパフィールド』を読了しました。1849年から1850年にかけて発表されたディケンズ中期の長編小説で、自伝的要素の強い作品であると…

北条裕子『美しい顔』

北条裕子 『美しい顔』 講談社 北条裕子の『美しい顔』を読了しました。第61回群像新人文学賞の受賞作で、芥川賞の候補作にもなった本書ですが、石井光太氏のノンフィクション作品をはじめとして、参考文献の取り扱いの杜撰さが批判を集めました。本書を読ん…

マリオ・バルガス=リョサ『チボの狂宴』

マリオ・バルガス=リョサ 八重樫克彦・八重樫由貴子訳 『チボの狂宴』 作品社 マリオ・バルガス=リョサ(1936-)の『チボの狂宴』を読了しました。ドミニカ共和国で長年にわたって独裁者として君臨したトゥルヒーリョをテーマに取り上げたバルガス=リョサの…

中川純男責任編集『哲学の歴史 第3巻 神との対話【中世】』

中川純男責任編集 『哲学の歴史 第3巻 神との対話【中世】』 中央公論新社 『哲学の歴史 第3巻 神との対話【中世】』を読了しました。「アレクサンドリアの神学」と題された章から始まって、エックハルトに至るまでのいわゆる「中世哲学」の歴史が概観されま…

ジョン・ロック『キリスト教の合理性』

ジョン・ロック 加藤節訳 『キリスト教の合理性』 岩波文庫 ジョン・ロック(1632-1704)の『キリスト教の合理性』を読了しました。『人間知性論』や『統治二論』などの著作が有名なロックですが、その宗教思想については、哲学や政治学の分野における業績ほ…

エルンスト・マッハ『感覚の分析』

エルンスト・マッハ 須藤吾之助・廣松渉訳 『感覚の分析』 法政大学出版局 エルンスト・マッハ(1838-1916)の『感覚の分析』を読了しました。オーストリア出身の物理学者で、科学史や科学哲学の分野でも活躍したマッハが著した哲学の著作のひとつが本書です…

J・M・クッツェー『イエスの学校時代』

J・M・クッツェー 鴻巣友季子訳 『イエスの学校時代』 早川書房 J・M・クッツェー(1940-)の『イエスの学校時代』を読了しました。本書は『イエスの幼子時代』の続編で、最終的には三部作として予定されている作品です。スペイン語が公用語として話される架…

W・サローヤン『ワン デイ イン ニューヨーク』

W・サローヤン 今江祥智訳 『ワン デイ イン ニューヨーク』 新潮文庫 W・サローヤン(1908-1981)の『ワン デイ イン ニューヨーク』を読了しました。原題は“One Day in the Afternoon of the World”で、少し意訳した日本語タイトルになっています。1964年…

伊勢田哲治『科学哲学の源流をたどる 研究伝統の百年史』

伊勢田哲治 『科学哲学の源流をたどる 研究伝統の百年史』 ミネルヴァ書房 伊勢田哲治の『科学哲学の源流をたどる』を読了しました。本書は、20世紀の論理実証主義以前の「科学哲学」に関する歴史を整理して紐解いた科学哲学史の研究書です。ハーシェル、ヒ…

コーマック・マッカーシー『ブラッド・メリディアン』

コーマック・マッカーシー 黒原敏行訳 『ブラッド・メリディアン』 ハヤカワ文庫 コーマック・マッカーシー(1933-)の『ブラッド・メリディアン』を読了しました。原著の出版は1985年のことで、出世作となった『すべての美しい馬』(1992年)よりも前なので…

ソール・A・クリプキ『名指しと必然性』

ソール・A・クリプキ 八木沢敬・野家啓一訳 『名指しと必然性』 産業図書 ソール・A・クリプキ(1940-)の『名指しと必然性』を読了しました。ラッセルによる確定記述に基づく固有名の解釈に真っ向から反対して、指示の因果説を提唱した20世紀の言語哲学にお…

上枝美典『現代認識論入門 ゲティア問題から徳認識論まで』

上枝美典 『現代認識論入門 ゲティア問題から徳認識論まで』 勁草書房 上枝美典の『現代認識論入門 ゲティア問題から徳認識論まで』を読了しました。エドマンド・ゲティアが1963年に発表した極めて短い論文を端緒として、主に英米系の分析哲学の流れの中で「…

森見登美彦『熱帯』

森見登美彦 『熱帯』 文藝春秋 森見登美彦の『熱帯』を読了しました。『千夜一夜物語』を導きの糸とした物語で、「熱帯」という幻の本を巡るファンタジーが展開されます。沈黙読書会などディテールの面白さと物語を発散させていく手筋は相変わらず素晴らしく…

Nelson Goodman "Fact, Fiction, and Forecast"

Nelson Goodman "Fact, Fiction, and Forecast" Harvard University Press Nelson Goodman(1906-1988)の"Fact, Fiction, and Forecast"を読了しました。『事実・虚構・予言』として勁草書房から翻訳が出ており、現在も流通している書籍ではあるのですが、…

トマス・ピンチョン『ヴァインランド』

トマス・ピンチョン 佐藤良明訳 『ヴァインランド』 新潮社 トマス・ピンチョン(1937-)の『ヴァインランド』を読了しました。大作『重力の虹』から16年(17年?)の後、1990年に発表された本書は、1960年代に青春時代を過ごしたヒッピーたちの若き日の回想…

J・L・ボルヘス『七つの夜』

J・L・ボルヘス 野谷文昭訳 『七つの夜』 岩波文庫 J・L・ボルヘス(1899-1986)の『七つの夜』を読了しました。本書には、ボルヘスがブエノスアイレスにあるコリセオ劇場で七夜にわたって行った七つの講演が収められています。「神曲」、「悪夢」、「千一夜…

アゴタ・クリストフ『どちらでもいい』

アゴタ・クリストフ 堀茂樹訳 『どちらでもいい』 ハヤカワ文庫 アゴタ・クリストフ(1935-2011)の『どちらでもいい』を読了しました。ハンガリー生まれで、スイスに移住してフランス語で小説を執筆したクリストフが『悪童日記』でデビューしたのは1986年の…

アーウィン・ショー『夏の日の声』

アーウィン・ショー 常盤新平訳 『夏の日の声』 講談社文庫 アーウィン・ショー(1913-1984)の『夏の日の声』を読了しました。息子の野球の試合を眺める現代パートと、自分の人生の来し方・半生を振り返る男の回想とが交互に語られる構造の長編小説です。19…

フアン・ルルフォ『ペドロ・パラモ』

フアン・ルルフォ 杉山晃・増田義郎訳 『ペドロ・パラモ』 岩波文庫 フアン・ルルフォ(1917-1986)の『ペドロ・パラモ』を読了しました。メキシコの作家であるルルフォが生涯で著した本はたったの二冊とのことで(脚本などは書いていたようなのですが)、短…

マルティン・ヴァルザー『逃亡する馬』

マルティン・ヴァルザー 内藤道雄訳 『逃亡する馬』 同学社 マルティン・ヴァルザー(1927-)の『逃亡する馬』を読了しました。「新しいドイツの文学」シリーズと銘打たれた叢書の一冊ですが、1988年の初版発行ということで、21世紀を迎えた現在の地点から見…

ジョゼ・サラマーゴ『あらゆる名前』

ジョゼ・サラマーゴ 星野祐子訳 『あらゆる名前』 彩流社 ジョゼ・サラマーゴ(192-2010)の『あらゆる名前』を読了しました。本書はポルトガルの作家サラマーゴが1997年に発表した作品で、私がこれまでに読んだことのある『白の闇』(1995年)、そして『見…

筒井康隆『残像に口紅を』

筒井康隆 『残像に口紅を』 中公文庫 筒井康隆の『残像に口紅を』を読了しました。ネタバレを気にするという作品でもないので、本書の核となる仕掛けにも触れようと思うのですが、本書は日本語の五十音が順番に消えていくなかで書かれた小説であり、そしてそ…