文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

2021-04-01から1ヶ月間の記事一覧

ヘンリ・ミラー『北回帰線』

ヘンリ・ミラー 大久保康雄訳 『北回帰線』 新潮文庫 ヘンリ・ミラー(1891-1980)の『北回帰線』を読了しました。パリ滞在中の1934年に発表された本書は彼の処女作であり代表作で、作家の魂の声が打ち込まれた作品になっています。作家自身は本書を「これは…

ドストエフスキー『未成年』

ドストエフスキー 工藤精一郎訳 『未成年』 新潮文庫 ドストエフスキー(1821-1881)の『未成年』を読了しました。ドストエフスキーの絶筆は『カラマーゾフの兄弟』ですが、最後から二番目に書かれた長編作品が本書『未成年』で、これまでずっと読む機会がな…

スティーヴ・エリクソン『きみを夢みて』

スティーヴ・エリクソン 越川芳明訳 『きみを夢みて』 ちくま文庫 スティーヴ・エリクソン(1950-)の『きみを夢みて』を読了しました。原題は“These Dreams Of You”でヴァン・モリソンが1970年に発表したアルバムの収録曲名から取られています。2007年にエ…

アリス・マンロー『ディア・ライフ』

アリス・マンロー 小竹由美子訳 『ディア・ライフ』 新潮社 アリス・マンロー(1931-)の『ディア・ライフ』を読了しました。2012年に発表された本書は「最新最後の短編集」と銘打たれています。2013年6月に執筆生活からの引退を明言したアリス・マンローは…

阿部和重『無常の世界』

阿部和重 『無常の世界』 新潮文庫 阿部和重の『無常の世界』を読了しました。1999年の野間文芸新人賞を受賞した作品集です。「トライアングルズ」、「無常の世界」、「塵(みなごろし)」の三作が収録されています。いずれも90年代後半の空気感というものが…

キム・ステレルニー/ポール・E・グリフィス『セックス・アンド・デス 生物学の哲学への招待』

キム・ステレルニー/ポール・E・グリフィス 松本俊吉監修 『セックス・アンド・デス 生物学の哲学への招待』 春秋社 キム・ステレルニー/ポール・E・グリフィスの『セックス・アンド・デス 生物学の哲学への招待』を読了しました。原著は1999年に出版され…

ユーゴー『死刑囚最後の日』

ユーゴー 豊島与志雄訳 『死刑囚最後の日』 岩波文庫 ユーゴー(1802-1885)の『死刑囚最後の日』を読了しました。19世紀フランスのロマン主義を代表する詩人・作家であるヴィクトル・ユーゴーが若き日(1829)に発表した作品です。本書の冒頭に置かれた訳者…

保坂和志『季節の記憶』

保坂和志 『季節の記憶』 中公文庫 保坂和志の『季節の記憶』を読了しました。子どもを子どものままに、猫を猫のままに、日常を日常のままに描くことができるのは稀有な才能なのだと思うのですが、保坂氏の作品をたまに読みたくなるのはそのあたりに理由があ…

ウラジーミル・ソローキン『ブロの道』

ウラジーミル・ソローキン 松下隆志訳 『ブロの道』 河出書房新社 ウラジーミル・ソローキン(1955-)の『ブロの道』を読了しました。『氷』に続く三部作の二作目という位置づけの作品ですが、物語上の時系列でいうと『氷』の前日譚ということになります。19…

マリオ・バルガス=リョサ『楽園への道』

マリオ・バルガス=リョサ 田村さと子訳 『楽園への道』 河出文庫 マリオ・バルガス=リョサ(1936-)の『楽園への道』を読了しました。2003年に発表された本作品は、河出書房新社の池上夏樹氏個人編集の世界文学全集の一冊として2008年に日本で刊行された後、…

アップダイク『クーデタ』

アップダイク 池澤夏樹訳 『クーデタ』 河出書房新社 アップダイク(1932-2009)の『クーデタ』を読了しました。アフリカの架空の国家「クシュ」を舞台にした小説で、アップダイクの異色作ともいえる小説です。池澤夏樹氏による個人編集の世界文学全集の一冊…

パール・バック『大地』

パール・バック 新居格訳・中野好夫補訳 『大地』 新潮文庫 パール・バック(1892-1973)の『大地』を読了しました。アメリカに生まれながら宣教師である両親のもとで幼少期を中国で過ごした彼女が、中国の大地に生きた王家三代のクロニクルを描いた作品です…

古川日出男『アラビアの夜の種族』

古川日出男 『アラビアの夜の種族』 角川文庫 古川日出男の『アラビアの夜の種族』を読了しました。物語を通じて歴史を動かそうとする試みがユニークな作品です。ただ、ちょうど同時期に読んだ星野智幸氏の『夜は終わらない』に比べると文学的な企みの面では…

ル・クレジオ『海を見たことがなかった少年 モンドほか子供たちの物語』

ル・クレジオ 豊崎光一・佐藤領時訳 『海を見たことがなかった少年 モンドほか子供たちの物語』 集英社文庫 ル・クレジオ(1940-)の『海を見たことがなかった少年 モンドほか子供たちの物語』を読了しました。1978年に発表された本書には、8編の短編が収録…

星野智幸『夜は終わらない』

星野智幸 『夜は終わらない』 講談社文庫 星野智幸の『夜は終わらない』を読了しました。2015年に発表された作品で、読売文学賞を受賞しています。『千夜一夜物語』に範を取ったプロットで、結婚詐欺師である玲緒奈は死の直前に男たちに物語を語ることを促し…

『ラテンアメリカ五人集』

マリオ・バルガス=リョサほか 安藤哲行ほか訳 『ラテンアメリカ五人集』 集英社文庫 ラテンアメリカ文学を代表する作家五人の作品を独自編集したのが本書『ラテンアメリカ五人集』です。ホセ・エミリオ・パチェーコ、ミゲル・アンヘル・アストゥリアスは初…

マイクル・コナリー『贖罪』

マイクル・コナリー 古沢嘉通訳 『贖罪』 講談社文庫 マイクル・コナリー(1956-)の『贖罪』を読了しました。ハリー・ボッシュシリーズの第十八作目の作人です。意外な真相というものはないのですが、相変わらずのページターナーぶりを堪能できる作品です。…

ウィリアム・シェイクスピア『夏の夜の夢』

ウィリアム・シェイクスピア 小田島雄志訳 『夏の夜の夢』 白水Uブックス ウィリアム・シェイクスピア(1564-1616)の『夏の夜の夢』を読了しました。妖精パックの「ほれ薬」が巻き起こす人違いの求愛行動や、全編を通して感じられる祝祭的な雰囲気が何とも…