文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

2021-01-01から1年間の記事一覧

『パウル・ツェラン全詩集Ⅱ』

中村朝子訳 『パウル・ツェラン全詩集Ⅱ』 青土社 『パウル・ツェラン全詩集Ⅱ』を読了しました。本書にはパウル・ツェラン(1920-1970)の著した以下の詩集が収録されています。 『息の転換(Atemwende)』,1967 『糸の太陽たち(Fadensonnen)』,1968 『光輝…

コリン・デクスター『ジェリコ街の女』

コリン・デクスター 大庭忠男訳 『ジェリコ街の女』 ハヤカワ文庫 コリン・デクスター(1930-)の『ジェリコ街の女』を読了しました。原題は“The Dead of Jericho”です。頭の中で捏ねられる論理によって操作を行う異色の警官を主人公とした「モース警部」シ…

マリオ・バルガス=リョサ『悪い娘の悪戯』

マリオ・バルガス=リョサ 八重樫克彦・八重樫由貴子訳 『悪い娘の悪戯』 作品社 マリオ・バルガス=リョサ(1936-)の『悪い娘の悪戯』を読了しました。『楽園への道』に続いて2006年に発表された本書は「恋愛小説」と呼ぶにふさわしい作品なのですが、作品発…

シュトルム『大学時代・広場のほとり 他四篇』

シュトルム 関泰祐訳 『大学時代・広場のほとり 他四篇』 岩波文庫 シュトルム(1817-1888)の『大学時代・広場のほとり 他四篇』を読了しました。表題先のほか「おもかげ」「一ひらの緑の葉」「アンゲーリカ」「レナ・ヴィーナス」の四作品が収録されていま…

青木淳悟『このあいだ東京でね』

青木淳悟 『このあいだ東京でね』 新潮社 青木淳悟の『このあいだ東京でね』を読了しました。何かに憑依したトレース小説という一風変わった特徴を持つ青木淳悟死の作品集です。依り代となっているのは、物理空間的な街そのものであったり、建築工学であった…

ジェフリー・ユージェニデス『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』

ジェフリー・ユージェニデス 佐々田雅子訳 『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』 ハヤカワ文庫 ジェフリー・ユージェニデス(1960-)の『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』を読了しました。原題は“The Virgin Suicides”で、ほぼオリジナルと言っても…

G・ガルシア=マルケス『わが悲しき娼婦たちの思い出』

G・ガルシア=マルケス 木村榮一訳 『わが悲しき娼婦たちの思い出』 新潮社 G・ガルシア=マルケス(1928-2014)の『わが悲しき娼婦たちの思い出』を読了しました。2004年に発表されたガルシア=マルケスの最後の小説作品です。長編作品というにはあまりに短く…

J・D・サリンジャー『ナイン・ストーリーズ』

J・D・サリンジャー 柴田元幸訳 『ナイン・ストーリーズ』 ヴィレッジブックス J・D・サリンジャー(1919-2010)の『ナイン・ストーリーズ』を読了しました。3年ほど前に新潮文庫の野崎氏の訳で読んだのですが(さらにその昔、高校生の頃にも読んだ記憶があ…

ラリー・ラウダン『科学と価値 相対主義と実在論を論駁する』

ラリー・ラウダン 小草泰・戸田山和久訳 『科学と価値 相対主義と実在論を論駁する』 勁草書房 ラリー・ラウダン(1941-)の『科学と価値 相対主義と実在論を論駁する』を読了しました。科学史家・科学哲学者として活躍するラウダンの科学哲学上の主著の翻訳…

アリ・スミス『秋』

アリ・スミス 木原善彦訳 『秋』 新潮社 アリ・スミス(1962-)の『秋』を読了しました。現代イギリスで注目すべき作家のひとりであるアリ・スミスの作品で、ブッカー賞候補作ともなったのが本書の帯には「最初の『ポスト・ブレグジット』小説」とあります。…

アン・ビーティ『燃える家』

アン・ビーティ 亀井よし子訳 『燃える家』 ブロンズ新社 アン・ビーティ(1947-)の『燃える家』を読了しました。優れた短編作家として知られるアン・ビーティですが、以前に「ニューヨーカー」掲載作品のアンソロジーで読んだ作品の切れ味があまりに見事で…

フローベール『サラムボー』

フローベール 中條屋進訳 『サラムボー』 岩波文庫 フローベール(1821-1880)の『サラムボー』を読了しました。古代カルタゴを舞台に描かれたフローベールの長編第二作目です。前作である『ボヴァリー夫人』とはうってかわって紀元前の歴史に題材を得たフロ…

スコット・フィッツジェラルド『ある作家の夕刻 フィッツジェラルド後期作品集』

スコット・フィッツジェラルド 村上春樹編訳 『ある作家の夕刻 フィッツジェラルド後期作品集』 中央公論新社 『ある作家の夕刻 フィッツジェラルド後期作品集』を読了しました。フィッツジェラルドの晩年にあたる1930年代に書かれた小説とエッセイを、村上…

フローベール『三つの物語』

フローベール 谷口亜沙子訳 『三つの物語』 光文社古典新訳文庫 フローベール(1821-1880)の『三つの物語』を読了しました。フローベールが晩年に発表した「素朴な人」「聖ジュリアン伝」「ヘロディアス」の三編が収録された作品集です。未完に終わった長編…

スティーヴン・P・スティッチ『断片化する理性 認識論的プラグマティズム』

スティーヴン・P・スティッチ 薄井尚樹訳 『断片化する理性 認識論的プラグマティズム』 勁草書房 スティーヴン・P・スティッチ(1943-)の『断片化する理性 認識論的プラグマティズム』を読了しました。認識論を自然化するというクワインの標榜したプロジェ…

チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ『アメリカーナ』

チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ くぼたのぞみ訳 『アメリカーナ』 河出文庫 チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ(1977-)の『アメリカーナ』を読了しました。アディーチェはナイジェリアの作家で、2013年に発表された長編第三作である本書は全米批評家…

ドメニコ・スタルノーネ『靴ひも』

ドメニコ・スタルノーネ 関口英子訳 『靴ひも』 新潮社 ドメニコ・スタルノーネ(1943-)の『靴ひも』を読了しました。本書の裏表紙のカバーには、イタリアへと移住したジュンパ・ラヒリが惚れ込んで英訳したというエピソードが記されています。短いながら、…

磯﨑憲一郎『往古来今』

磯﨑憲一郎 『往古来今』 文春文庫 磯﨑憲一郎の『往古来今』を読了しました。5篇の短編小説が収められた作品集です。磯﨑氏は小説でしか描けないものを表現するのが上手な作家というイメージなのですが、本書に収録されたいずれの作品も小説ならではの時間…

ウィリアム・ギャディス『JR』

ウィリアム・ギャディス 木原善彦訳 『JR』 国書刊行会 ウィリアム・ギャディス(1922-1998)の『JR』を読了しました。1975年に発表された本書の原題は“JR FAMILY OF COMPANIES”で、11歳の少年JRがひょんなことから手にした株式をもとに巨大コングロマリット…

ザミャーチン『われら』

ザミャーチン 松下隆志訳 『われら』 光文社古典新訳文庫 エヴゲーニイ・ザミャーチン(1884-1937)の『われら』を読了しました。ロシアの作家ザミューチンの代表作です。ハクスリーの『すばらしい新世界』やオーウェルの『1984年』に先行して書かれたディス…

ジョン・ロック『統治二論』

ジョン・ロック 加藤節訳 『統治二論』 岩波文庫 ジョン・ロック(1632-1704)の『統治二論』を読了しました。ロックの政治哲学上の主著といえる作品で、文字通り「統治(government)」に関する二つの論考が収録されています。 「統治について」と題された…

G・ガルシア=マルケス『愛その他の悪霊について』

G・ガルシア=マルケス 旦敬介訳 『愛その他の悪霊について』 新潮社 G・ガルシア=マルケス(1928-2014)の『愛その他の悪霊について』を読了しました。『コレラの時代の愛』と同様に愛をテーマにした作品です。短めの長編小説というか、中編小説といっても差…

鈴木貴之編著『実験哲学入門』

鈴木貴之編著 『実験哲学入門』 勁草書房 鈴木貴之編著『実験哲学入門』を読了しました。哲学という営みにおいて行われてきた概念分析においては、哲学者が様々な概念の内実を明らかにするために、自身(たち)の「直観」への適合性を問題にしてきたのですが…

ダンテ『神曲 天国篇』

ダンテ 平川祐弘訳 『神曲 天国篇』 河出文庫 ダンテ(1265-1321)の『神曲 天国篇』を読了しました。煉獄に続いて天国へと至るダンテの道行きはいよいよ本巻で神を見るに至りフィナーレを迎えることとなります。キリスト教文化に馴染みの薄い者にとってはな…

ダンテ『神曲 煉獄篇』

ダンテ 平川祐弘訳 『神曲 煉獄篇』 河出文庫 ダンテ(1265-1321)の『神曲 煉獄篇』を読了しました。ウェルギリウスとともにダンテが地獄に続いて訪れたのは煉獄(Purgatorio)で、天国を訪れることを約束された者たちが現世の罪を浄める場とされています。…

ダンテ『神曲 地獄篇』

ダンテ 平川祐弘訳 『神曲 地獄篇』 河出文庫 ダンテ(1265-1321)の『神曲 地獄篇』を読了しました。ルネサンス文化の先駆者であり、イタリア最大の詩人であるダンテ・アリギエーリの書いた“La Divina Commedia”の第一部をなす「地獄篇(Inferno)」です。…

J・アップダイク『日曜日だけの一カ月』

J・アップダイク 井上謙治訳 『日曜日だけの一カ月』 新潮社 J・アップダイク(1932-2009)の『日曜日だけの一カ月』を読了しました。原題は“A Month of Sundays”で発表されたのは1975年のこと、ちょうど中期の作品といってよいのでしょうか。牧師の姦通とい…

ブレット・イーストン・エリス『アメリカン・サイコ』

ブレット・イーストン・エリス 小川高義訳 『アメリカン・サイコ』 角川文庫 ブレット・イーストン・エリス(1964-)の『アメリカン・サイコ』を読了しました。かつて映画化もされて良くも悪くも話題になった作品ですが、それから20年以上経ってからの読書と…

ジョン・アーヴィング『また会う日まで』

ジョン・アーヴィング 小川高義訳 『また会う日まで』 新潮社 ジョン・アーヴィング(1942-)の『また会う日まで』を読了しました。2005年に発表されたアーヴィングの11作目の長編小説で、原題は“Until I Find You”です。父を知らずに育った主人公のジャック…

中村文則『王国』

中村文則 『王国』 河出文庫 中村文則の『王国』を読了しました。大江健三郎賞を受賞した『掏摸』の姉妹編といわれる作品で、前作で圧倒的な存在感を放っていた木崎という人物が本書にも登場します。前作を読んだのがいつのことだったか覚えてはいないのです…