文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

2022-01-01から1年間の記事一覧

M・バルガス=リョサ『パンタレオン大尉と女たち』

M・バルガス=リョサ 高見英一訳 『パンタレオン大尉と女たち』 新潮社 M・バルガス=リョサ(1936-)の『パンタレオン大尉と女たち』を読了しました。本書は品切れ重版未定が続いていて、なかなか手に取ることができなかったのですが、このたびようやく読むこ…

カレル・チャペック『白い病』

カレル・チャペック 阿部賢一訳 『白い病』 岩波文庫 カレル・チャペック(1890-1938)の『白い病』を読了しました。著者が亡くなる前年の1937年に発表されたこの戯曲作品は、ナチス・ドイツによるチェコスロバキア共和国の解体を目前にした時代にあって、疫…

アンドレイ・サプコフスキ『ウィッチャーⅣ ツバメの塔』

アンドレイ・サプコフスキ 川野靖子訳 『ウィッチャーⅣ ツバメの塔』 ハヤカワ文庫 アンドレイ・サプコフスキの『ウィッチャーⅣ ツバメの塔』を読了しました。全五作のシリーズ作品のうち、本書は四番目の長編作品となりますが、物語が閉じられていく気配は…

舞城王太郎『私はあなたの瞳の林檎』

舞城王太郎 『私はあなたの瞳の林檎』 講談社文庫 舞城王太郎の『私はあなたの瞳の林檎』を読了しました。2001年にデビューして以来、舞城氏の小説についてはそのほとんどを読んでいるのですが、今の若い人にも氏の作品は読まれているのでしょうか。本書に収…

J・K・ローリング『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』

J・K・ローリング 松岡佑子訳 『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』 静山社 J・K・ローリングの『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』を読了しました。シリーズ五作目となる本書ですが、この作品くらいからシリーズを原作とした映画作品の方にはまったく触…

スティーヴン・キング『ダークタワー Ⅳ 魔道師と水晶球』

スティーヴン・キング 風間賢二訳 『ダークタワー Ⅳ 魔道師と水晶球』 角川文庫 スティーヴン・キング(1947-)の『ダークタワー Ⅳ 魔道師と水晶球』を読了しました。前作の『荒地』においてまるで中途半端なままに打ち切られた、知性を持つ高速モノレール〈…

『ヘッセ詩集』

ヘルマン・ヘッセ 高橋健二訳 『ヘッセ詩集』 新潮文庫 ヘルマン・ヘッセ(1877-1962)の『ヘッセ詩集』を読了しました。「詩人になる」ことへの若者の切望と苦悩を多くの小説のかたちで描いたヘッセですが、本書にはそのヘッセが1898年から1945年頃にかけて…

J・K・ローリング『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』

J・K・ローリング 松岡佑子訳 『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』 静山社 J・K・ローリングの『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』を読了しました。シリーズ四作目となる本書は、ストーリー展開もこれまでの三冊とはいささか趣向が変わっていて、シリー…

レイ・ブラッドベリ『火星年代記〔新版〕』

レイ・ブラッドベリ 『火星年代記〔新版〕』 レイ・ブラッドベリ(1920-2012)の『火星年代記〔新版〕』を読了しました。単行本としては1950年に発表されたSF小説の古典ともいえる作品ですが、本書は「新版」と銘打たれているように、1997年になってから作者…

有栖川有栖『こうして誰もいなくなった』

有栖川有栖 『こうして誰もいなくなった』 角川文庫 有栖川有栖の『こうして誰もいなくなった』を読了しました。本格ミステリ作家である作者のノンシリーズの短編・中編からなる作品集です。作者自身が解題しているように、本格ミステリというよりはホラー作…

大江健三郎 文/大江ゆかり 画『恢復する家族』

大江健三郎 文/大江ゆかり 画 『恢復する家族』 講談社文庫 大江健三郎の『恢復する家族』を読了しました。障害を持って生まれてきた長男との共生の歩みを手掛かりとして、傷と癒しについての思索を深めていく作家と家族の様子を綴った長篇エッセイです。と…

H・P・ラヴクラフト『狂気の山脈にて クトゥルー神話傑作選』

H・P・ラヴクラフト 南條竹則編訳 『狂気の山脈にて クトゥルー神話傑作選』 新潮文庫 H・P・ラヴクラフト(1890-1937)の『狂気の山脈にて クトゥルー神話傑作選』を読了しました。新潮スタークラシックスと銘打って海外文学の古典新訳が不定期で刊行されて…

J・K・ローリング『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』

J・K・ローリング 松岡佑子訳 『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』 静山社 J・K・ローリングの『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』を読了しました。良くいえば定番のプロット、悪くいえば同工異曲ともいえる展開ではあるのですが、それでも少しずつ…

ジム・フジーリ『ペット・サウンズ』

ジム・フジーリ 村上春樹訳 『ペット・サウンズ』 新潮社 ジム・フジーリの『ペット・サウンズ』を読了しました。作者はミステリー小説のほか、ロックやポップスに関する文章を発表していて、本書はアメリカのロックバンドであるビーチ・ボーイズが1966年に…

ヴォルテール『カンディード 他五篇』

ヴォルテール 植田祐次訳 『カンディード 他五篇』 岩波文庫 ヴォルテール(1694-1778)の『カンディード 他五篇』を読了しました。「コント」というのは、もともとフランス語で短い寸劇のことを意味するそうですが、本書にはヴォルテールの代表的なコントの…

村上春樹・安西水丸『村上朝日堂の逆襲』

村上春樹・安西水丸 『村上朝日堂の逆襲』 新潮文庫 1985年から1986年にかけて「週間朝日」で連載されたエッセイ集。連載期間は長編作品でいえば『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』と『ノルウェイの森』が発表される間の期間に当たります。安…

J・K・ローリング『ハリー・ポッターと秘密の部屋』

J・K・ローリング 松岡佑子訳 『ハリー・ポッターと秘密の部屋』 静山社 J・K・ローリングの『ハリー・ポッターと秘密の部屋』を読了しました。魔法学校に通うハリー・ポッターを主人公とするファンタジーシリーズの第二作品目です。黒幕の存在を完全には気…

タチアナ・ド・ロネ『サラの鍵』

タチアナ・ド・ロネ 高見浩訳 『サラの鍵』 新潮社 タチアナ・ド・ロネ(1961-)の『サラの鍵』を読了しました。本書カバーに記されたプロフィールによると、作者はパリ郊外で生まれパリとボストンで育ち、イギリスのイースト・アングリア大学で英文学を学ん…

J・K・ローリング『ハリー・ポッターと賢者の石』

J・K・ローリング 松岡佑子訳 『ハリー・ポッターと賢者の石』 静山社 J・K・ローリングの『ハリー・ポッターと賢者の石』を読了しました。映画を見た記憶はあるのですが、原作シリーズを読むのは初めてとなります。読んでみて強く感じられたのは伏線の仕掛…

又吉直樹『人間』

又吉直樹 『人間』 毎日新聞出版 又吉直樹の『人間』を読了しました。前二作を引き継ぐ主題や表現もありながら、新たな文学的試みにそろそろと手を伸ばそうとしているという印象の作品でした。次の作品が楽しみだと感じている読書家の方は多いのではないでし…

G・ガルシア=マルケス『ぼくはスピーチをするために来たのではありません』

G・ガルシア=マルケス 木村榮一訳 『ぼくはスピーチをするために来たのではありません』 新潮社 G・ガルシア=マルケス(1928-2014)の『ぼくはスピーチをするために来たのではありません』を読了しました。本書には「スピーチ嫌い」とされるガルシア=マルケ…

モーシン・ハミッド『コウモリの見た夢』

モーシン・ハミッド 川上純子訳 『コウモリの見た夢』 ランダムハウスジャパン モーシン・ハミッド(1971-)の『コウモリの見た夢』を読了しました。作者の小説を読むのは本書で二冊目となります(現状、翻訳が出版されているのが二冊)。ブッカー賞最終候補…

フィリップ・ロス『プロット・アゲンスト・アメリカ もしもアメリカが…』

フィリップ・ロス 柴田元幸訳 『プロット・アゲンスト・アメリカ もしもアメリカが…』 集英社 フィリップ・ロス(1933-2018)の『プロット・アゲンスト・アメリカ もしもアメリカが…』を読了しました。2004年に発表された作品で、作者と“同名”のフィリップ・…

F・スコット・フィッツジェラルド『美しく呪われた人たち』

F・スコット・フィッツジェラルド 上岡伸雄訳 『美しく呪われた人たち』 作品社 F・スコット・フィッツジェラルド(1896-1940)の『美しく呪われた人たち』を読了しました。本書が発表されたのは『グレート・ギャツビー』が世に出る3年前の1922年のことで、…

星野智幸『呪文』

星野智幸 『呪文』 河出文庫 星野智幸の『呪文』を読了しました。作者らしい衝動力を感じさせる作品なのですが、その衝動が向かうベクトルが分かりそうで分からない、不思議な読み心地の小説というのが率直な感想です。チャプター名に登場人物の名前が冠せら…

ラーゲルレーヴ『ポルトガリヤの皇帝さん』

ラーゲルレーヴ イシガオサム訳 『ポルトガリヤの皇帝さん』 岩波文庫 ラーゲルレーヴ(1858-1940)の『ポルトガリヤの皇帝さん』を読了しました。セルマ・ラーゲルレーヴはスウェーデンの作家で、1909年にスウェーデン人初・女性初のノーベル文学賞受賞作家…

乗代雄介『旅する練習』

乗代雄介 『旅する練習』 講談社 乗代雄介の『旅する練習』を読了しました。第164回芥川賞候補作となった作品で、乗代氏は常連の候補者となりながら、このときも受賞には至りませんでした。本書は岡山市の主催する坪田譲治文学賞を受賞していて、大人も子ど…

ジェイン・オースティン『マンスフィールド・パーク』

ジェイン・オースティン 中野康司訳 『マンスフィールド・パーク』 ちくま文庫 ジェイン・オースティン(1775-1817)の『マンスフィールド・パーク』を読了しました。19世紀初めに活躍し近代イギリス小説のひとつのピークをなしたオースティンの作品群につい…

グラス『ブリキの太鼓』

グラス 池内紀訳 『ブリキの太鼓』 河出書房新社 ギュンター・グラス(1927-2015)の『ブリキの太鼓』を読了しました。1959年に発表されたグラスの第一作目の小説であり、彼の代表作でもある作品です。学生時代に集英社文庫の高本研一氏の翻訳で読んだことが…

大江健三郎『大江健三郎往復書簡 暴力に逆らって書く』

大江健三郎 『大江健三郎往復書簡 暴力に逆らって書く』 朝日文庫 『大江健三郎往復書簡 暴力に逆らって書く』を読了しました。本書は大江健三郎と同時代の知識人との間で交わされた往復書簡を収録したもので、その相手はギュンター・グラス、ナディン・ゴー…