文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

2023-01-01から1ヶ月間の記事一覧

平野啓一郎『死刑について』

平野啓一郎 『死刑について』 岩波書店 平野啓一郎の『死刑について』を読了しました。政治的な発言をためらうことなく続けている作者ですが、自身のかつての死刑存置派という立場から、死刑廃止論者へと至るきっかけとなった(緩やかで複数の)体験が、本書…

村上春樹『やがて哀しき外国語』

村上春樹 『やがて哀しき外国語』 講談社文庫 村上春樹の『やがて哀しき外国語』を読了しました。「村上朝日堂」などの完全にお気楽なテンションで書かれたエッセイとはやや趣が異なる作品で、1991年から約2年半の間にわたって作者が滞在したアメリカはプリ…

赤川次郎『三毛猫ホームズの駆落ち』

赤川次郎 『三毛猫ホームズの駆落ち』 角川文庫 赤川次郎の『三毛猫ホームズの駆落ち』を読了しました。本書では「ロミオとジュリエット」をモチーフにした人間関係から展開される事件が描かれているのですが、よくも悪くもその思い込みを逆手に取ったプロッ…

赤川次郎『三姉妹探偵団』

赤川次郎 『三姉妹探偵団』 講談社文庫 赤川次郎の『三姉妹探偵団』を読了しました。テレビドラマ化もされた(また、記憶が不確かなのですが、たしかアレンジを加えられたかたちで映画化もされた)有名なシリーズ作品です。主人公となる三姉妹の描写で楽しく…

吉村達也『最後の惨劇』

吉村達也 『最後の惨劇』 徳間文庫 吉村達也の『最後の惨劇』を読了しました。「惨劇の村」と題された五部作も本書でエンディングを迎えることとなります。物語の展開としては驚くほど短く感じられて、本書においておこる事件はあっという間に解決が図れるこ…

吉村達也『月影村の惨劇』

吉村達也 『月影村の惨劇』 徳間文庫 吉村達也の『月影村の惨劇』を読了しました。シリーズの四作目となる本書は、どちらかというと番外編といった位置づけの作品で、前作以上に予定調和から外れる異色作となっています。ミステリーとしてのトリックを期待す…

吉村達也『風吹村の惨劇』

吉村達也 『風吹村の惨劇』 徳間文庫 吉村達也の『風吹村の惨劇』を読了しました。一連のシリーズも第三作目を迎えて、読者が心に抱き始める予定調和から外れるようにして、本書においてシリーズの転換点ともいえる展開を持ってくるあたりに、作者の周到な企…

吉村達也『鳥啼村の惨劇』

吉村達也 『鳥啼村の惨劇』 徳間文庫 吉村達也の『鳥啼村の惨劇』を読了しました。「惨劇の村五部作」の第二作目にあたる作品で、事件の舞台となる架空の「村」の所在場所として設定されているのは、東京都の青ヶ島という実在の島です。GoogleMapなどによっ…

吉村達也『花咲村の惨劇』

吉村達也 『花咲村の惨劇』 徳間文庫 吉村達也の『花咲村の惨劇』を読了しました。「五部作」と銘打たれたシリーズ企画の第一作目にあたるのが本書で、新基軸を打ち出そうとする作者の本領がいかんなく発揮された作品です。ミステリーとして見たときに、単体…

リチャード・パワーズ『黄金虫変奏曲』

リチャード・パワーズ 森慎一郎・若島正訳 『黄金虫変奏曲』 みすず書房 リチャード・パワーズ(1957-)の『黄金虫変奏曲』を読了しました。1985年に『舞踏会へ向かう三人の農夫』でデビューしたパワーズが、1991年に発表した第三作目にあたる小説が本書です…

赤川次郎『三毛猫ホームズの狂死曲』

赤川次郎 『三毛猫ホームズの狂死曲』 角川文庫 赤川次郎の『三毛猫ホームズの狂死曲』を読了しました。作者のクラシック音楽への愛情が良いかたちで作品に反映されていて、ミステリーとしての本筋のプロットには若干粗い部分が見られるものの、作品全体とし…

吉村達也『「北斗の星」殺人事件』

吉村達也 『「北斗の星」殺人事件』 徳間文庫 吉村達也の『「北斗の星」殺人事件』を読了しました。物語のプロットにはやや強引に組み込まれているように思われる寝台特急「北斗星」のエピソードについても、「取材に行ったから無理に物語と接続したのだろう…

有栖川有栖『46番目の密室』

有栖川有栖 『46番目の密室』 講談社文庫 有栖川有栖の『46番目の密室』を読了しました。「臨床犯罪学者」である火村英生を探偵役とするシリーズ作品の第一作目にあたるのが本書です。後の作品と比べて、探偵役の印象(とりわけ冒頭の教室での講義風景など)…

吉村達也『やさしく殺して』

吉村達也 『やさしく殺して』 集英社文庫 吉村達也の『やさしく殺して』を読了しました。作者のカテゴライズでは、本書は「サスペンス」に分類されるようなのですが、その定義は「怖いけれども、ページの先を読むのに怖すぎはしない展開の読み物」とのこと。…

吉村達也『「戸隠の愛」殺人事件』

吉村達也 『「戸隠の愛」殺人事件』 徳間文庫 吉村達也の『「戸隠の愛」殺人事件』を読了しました。ノベルスとして刊行された当時は詰め将棋がメインのモチーフとして作品の前面に出ていたようなのですが、改稿にあたってはそれが背景に押し出されてしまった…

赤川次郎『悪妻に捧げるレクイエム』

赤川次郎 『悪妻に捧げるレクイエム』 角川文庫 赤川次郎の『悪妻に捧げるレクイエム』を読了しました。小説を共同執筆を主題として、その4名の共同執筆者がそれぞれの個性・文体のもとで描いた作中作小説が展開されるというストーリーは、初めて読んだとき…

吉村達也『初恋』

吉村達也 『初恋』 角川ホラー文庫 吉村達也の『初恋』を読了しました。本書はおそらく作者が発表した最初のホラー作品ということになるのだと思いますが、今回読み返してみるとすっかりコメディ作品のように感じられました。現代の視点から見ると、主人公で…

赤川次郎『東西南北殺人事件』

赤川次郎 『東西南北殺人事件』 講談社文庫 赤川次郎の『東西南北殺人事件』を読了しました。アンチヒーローたる探偵役を主人公に据えて繰り広げられるミステリー作品で、作者の生み出した人気シリーズのひとつです。その第一作目に当たるのが本書なのですが…

吉村達也『「伊豆の瞳」殺人事件』

吉村達也 『「伊豆の瞳」殺人事件』 徳間文庫 吉村達也の『「伊豆の瞳」殺人事件』を読了しました。作者が創造した「名探偵」のうち、最も登場作品数が多いと思われる朝比奈耕作を主人公とするシリーズの第一作目に当たるのが本書です。とはいえ、本書は文庫…

吉村達也『時の森殺人事件6』

吉村達也 『時の森殺人事件6』 中公文庫 吉村達也の『時の森殺人事件6』を読了しました。長かった物語もいよいよ終末を迎えます。ただ、本書よりもずっと長大なミステリー作品がその後次々に登場したことを知っている今となっては、あまり本書の長さという…

吉村達也『時の森殺人事件5』

吉村達也 『時の森殺人事件5』 中公文庫 吉村達也の『時の森殺人事件5』を読了しました。大きく広がっていく物語の構想は、コンパクトにまとまったミステリー作品を期待する人にとっては不評なのかもしれませんが、今ならばその狙いも含めて面白く感じられ…

吉村達也『時の森殺人事件4』

吉村達也 『時の森殺人事件4』 中公文庫 吉村達也の『時の森殺人事件4』を読了しました。この巻を迎える頃から、物語に対する個人的な期待感は徐々に落ち着いたものになっていたような記憶があるのですが、それは物語の謎が解き明かされるスピード感にも関…

森博嗣『冷たい密室と博士たち』

森博嗣 『冷たい密室と博士たち』 講談社文庫 森博嗣の『冷たい密室と博士たち』を読了しました。本来であればシリーズの第一作目となるはずだった作品で、やはり久し振りに読み返してみても、こちらの作品の方がとっつきやすかったのではないかと個人的には…

吉村達也『時の森殺人事件3』

吉村達也 『時の森殺人事件3』 中公文庫 吉村達也の『時の森殺人事件3』を読了しました。本書が文庫で刊行された当時のことを何となく思い出したのですが、第1巻と第2巻が発売された後、第3巻は少しだけ日をおいて書店に並んだのでした。盛り上がりを意識…

赤川次郎『緋色のペンダント』

赤川次郎 『緋色のペンダント』 光文社文庫 赤川次郎の『緋色のペンダント』を読了しました。シリーズ作品も第六作目となり、登場人物を動かしてミステリーを形作るというよりは、主要登場人物たちの関係性の変化を軸にしながら、その背景としてミステリー小…

吉村達也『時の森殺人事件2』

吉村達也 『時の森殺人事件2』 中公文庫 吉村達也の『時の森殺人事件2』を読了しました。テンポよく進行していく物語のペースにつられるようにして、読書もハイペースで進んでいくようです。いずれも癖の強いほとんどの登場人物には心から共感することはで…

赤川次郎『サラリーマンよ悪意を抱け』

赤川次郎 『サラリーマンよ悪意を抱け』 新潮文庫 赤川次郎の『サラリーマンよ悪意を抱け』を読了しました。随分と昔に、私自身がサラリーマンを経験する前に読んだときにはとても面白く感じられた物語ですが、今読み返してみるとまた違った感想も生まれてき…

村上春樹『村上朝日堂ジャーナル うずまき猫のみつけかた』

村上春樹 『村上朝日堂ジャーナル うずまき猫のみつけかた』 新潮文庫 村上春樹の『村上朝日堂ジャーナル うずまき猫のみつけかた』を読了しました。「村上朝日堂」のタイトルを冠したエッセイシリーズ(?)で、最初に刊行されたのは1996年だったようです。…

赤川次郎『真夜中のための組曲』

赤川次郎 『真夜中のための組曲』 講談社文庫 赤川次郎の『真夜中のための組曲』を読了しました。多彩なシリーズキャラクターを有する作者の著作郡にあって、本書はノンシリーズの短編集という極めて地味な作品なのですが、大変面白く読むことができました(…

吉村達也『「巴里の恋人」殺人事件』

吉村達也 『「巴里の恋人」殺人事件』 角川文庫 吉村達也の『「巴里の恋人」殺人事件』を読了しました。「ワンナイトミステリー」と題された企画で、一夜で読みきることができる中編作品として文庫書き下ろし(元となった短編作品はあったようですが)刊行さ…