文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

2023-03-01から1ヶ月間の記事一覧

エクトール・マロ『家なき子』

エクトール・マロ 村松潔訳 『家なき子』 新潮文庫 エクトール・マロ(1830-1907)の『家なき子』を読了しました。フランスの児童文学として知られる作品ですが、完訳は少なく、このたび手に取りやすい新潮文庫で全訳が出版されるのは喜ばしいことです。主人…

ウラジーミル・ソローキン『23000』

ウラジーミル・ソローキン 松下隆志訳 『23000』 河出書房新社 ウラジーミル・ソローキン(1955-)の『23000』を読了しました。『氷』と『ブロの道』に続く三部作の掉尾を飾る作品で、23000人の仲間を集めた兄弟団(カルト集団)たちの結集と、カルト集団に…

ヘニング・マンケル『霜の降りる前に』

ヘニング・マンケル 柳沢由実子訳 『霜の降りる前に』 創元推理文庫 ヘニング・マンケル(1948-2015)の『霜の降りる前に』を読了しました。作者が生み出した人気シリーズの主人公である刑事クルト・ヴァランダーの娘で、警察学校を修了して今まさに警察官に…

乗代雄介『パパイヤ・ママイヤ』

乗代雄介 『パパイヤ・ママイヤ』 小学館 乗代雄介の『パパイヤ・ママイヤ』を読了しました。高校生である二人の少女の繊細な交流を描いた青春小説です。『旅する練習』が児童文学の文脈からも評価を受けたように、本書はいわゆる主流文学というよりもヤング…

ナディン・ゴーディマ『この道を行く人なしに』

ナディン・ゴーディマ 福島富士男訳 『この道を行く人なしに』 みすず書房 ナディン・ゴーディマの『この道を行く人なしに』を読了しました。ゴーディマの作品を読むのは、長編作品としては『バーガーの娘』以来のこととなります。訳者が解説で述べているよ…

ジュリアン・バーンズ『イングランド・イングランド』

ジュリアン・バーンズ 『イングランド・イングランド』 創元ライブラリ ジュリアン・バーンズの『イングランド・イングランド』を読了しました。『終わりの感覚』でブッカー賞を受賞している作者ですが、本書も同賞の最終候補作品になったとのこと。イギリス…

吉村達也『夫の妹』

吉村達也 『夫の妹』 集英社文庫 吉村達也の『夫の妹』を読了しました。作者の意図するところは分かるような気もするのですが、時間をかけて読むべき作品かといわれると少し首をかしげてしまうところもあります。作者の作品については惰性で読み続けている状…

栗本薫『時の石』

栗本薫 『時の石』 角川文庫 栗本薫(1953-2009)の『時の石』を読了しました。ミステリーからSF小説、伝奇作品に至るまで幅広いジャンルで旺盛な創作を誇る作者のSF短編集です。表題作である「時の石」は不思議な力を備えた石の存在を巡る小説で、痛みを伴…

吉村達也『お見合い』

吉村達也 『お見合い』 角川ホラー文庫 吉村達也の『お見合い』を読了しました。主人公の語り口などに時代の工夫が見られるような気がします。本筋とは外したところに真相のポイントを持ってくるあたりは、本格ミステリーの要素を持つ作品であると言えないこ…

シェイクスピア『ヴェニスの商人』

シェイクスピア 『ヴェニスの商人』 白水Uブックス シェイクスピア(1564-1616)の『ヴェニスの商人』を読了しました。以前に岩波文庫版で読んだ記憶があるのですが、今回は白水社から刊行されている小田島雄志氏の翻訳です。あまりにも有名なユダヤ人商人…

筒井康隆『48億の妄想 マグロマル』

筒井康隆 『48億の妄想 マグロマル』 新潮社 筒井康隆の『48億の妄想 マグロマル』を読了しました。新潮社から刊行された筒井康隆全集の第二巻です。表題にも掲げられている長編作品「48億の妄想」を読むのはこれが初めてでしたが、テレビという存在を通した…

宗田理『ぼくらの七日間戦争』

宗田理 『ぼくらの七日間戦争』 角川文庫 宗田理の『ぼくらの七日間戦争』を読了しました。映画化もされたジュブナイル作品の傑作ですが、現代の若い子どもたちにも本書は読まれているのでしょうか。才気を感じさせる描写といささかステレオタイプにも思える…

島田荘司『夏、19歳の肖像』

島田荘司 『夏、19歳の肖像』 文春文庫 島田荘司の『夏、19歳の肖像』を読了しました。サスペンスに満ちた前半の展開から、瑞々しい青春小説のタッチを経て、後半は作者お得意のロマンティシズムに満ちたクライマックスへと流れ込んでいく物語で、作者の小説…

森博嗣『封印再度』

森博嗣 『封印再度』 講談社文庫 森博嗣の『封印再度』を読了しました。かつてこのシリーズを読んでいた時期も、この作品を読む頃から何となく惰性で読んでいたような記憶があるのですが、このたび読み返してみても少し退屈さの方が前に出てくる読書体験とな…

河野啓『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』

河野啓 『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』 集英社文庫 河野啓の『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』を読了しました。第十八回開高健ノンフィクション賞受賞作である本書ですが、Yahoo!JAPANのニュースでいささか扇情的な宣伝がなされていた…

スティーヴン・キング『ダークタワー Ⅵ スザンナの歌』

スティーヴン・キング 風間賢二訳 『ダークタワー Ⅵ スザンナの歌』 角川文庫 スティーヴン・キングの『ダークタワー Ⅵ スザンナの歌』を読了しました。残すところはあと二作品となった本シリーズですが、作者の別作品である『呪われた町』の登場人物である…

歌野晶午『さらわれたい女』

歌野晶午 『さらわれたい女』 角川文庫 歌野晶午の『さらわれたい女』を読了しました。本書の解説で法月綸太郎氏が「言いかえれば本書は、歌野氏が島田荘司氏の引力圏内から離脱して、岡嶋二人的な作風へシフトしていく最初の試みだったことになるけれど」と…

村上春樹『蛍・納屋を焼く・その他の短編』

村上春樹 『蛍・納屋を焼く・その他の短編』 新潮文庫 村上春樹の『蛍・納屋を焼く・その他の短編』を読了しました。本書の冒頭に置かれた短編作品「蛍」ですが、この作品の一部は『ノルウェイの森』に引き継がれて長編作品として展開されていたように記憶し…

フランシス・フクヤマ『歴史の終わり』

フランシス・フクヤマ 渡部昇一訳 『歴史の終わり』 三笠書房 フランシス・フクヤマの『歴史の終わり』を読了しました。ふとしたきっかけもあって、政治学や歴史学の範疇に入るであろう本書を手にとって読むこととなりました。20世紀においてヘーゲルの思想…

吉村達也『トリック狂殺人事件』

吉村達也 『トリック狂殺人事件』 角川文庫 吉村達也の『トリック狂殺人事件』を読了しました。昔に私が初めて読んだ吉村氏の作品は本書だったと記憶しているのですが、久し振りに読み返してみても読後の印象は良くも悪くもあまり変わりませんでした。伏線の…

ポール・アルテ『第四の扉』

ポール・アルテ 平岡敦訳 『第四の扉』 ハヤカワ文庫 ポール・アルテの『第四の扉』を読了しました。ディクスン・カーに影響を受けたというフランスのミステリー作家のデビュー作品が本書です。本書の解説において麻耶雄嵩氏が指摘しているように、トリック…

赤川次郎『三毛猫ホームズの恐怖館』

赤川次郎 『三毛猫ホームズの恐怖館』 角川文庫 赤川次郎の『三毛猫ホームズの恐怖館』を読了しました。登場人物の多さに読んでいていささか混乱させられるところがあるのですが、いろいろと新奇な企みが見て取れる作品になっていると思います。 【満足度】★…

貴志祐介『黒い家』

貴志祐介 『黒い家』 角川ホラー文庫 貴志祐介の『黒い家』を読了しました。数々のベストセラー作家を生み出した日本ホラー小説大賞の第四回大賞受賞作品で、言わずとしれた日本のホラー小説作品の傑作のひとつです。生命保険を主題に据えることで、メインと…

吉村達也『南太平洋殺人事件』

吉村達也 『南太平洋殺人事件』 角川文庫 吉村達也の『南太平洋殺人事件』を読了しました。かなり昔に読んだ記憶では、南太平洋のリゾートホテルを舞台に展開されるミステリーだったはずなのですが、物語のメインとなる事件は八丈島で起きています。その他に…

吉村達也『逆密室殺人事件』

吉村達也 『逆密室殺人事件』 角川文庫 吉村達也の『逆密室殺人事件』を読了しました。主人公のキャラクターは良くも悪くも印象深いのですが、本書においてはそれがどうも悪い方に働いてしまっているような気もします。主人公の上司の人物造形についても、現…

吉村達也『旧軽井沢R邸の殺人』

吉村達也 『旧軽井沢R邸の殺人』 光文社文庫 吉村達也の『旧軽井沢R邸の殺人』を読了しました。面白いトリックの仕掛けられたミステリー作品なのですが、再読してみてもなぜだか自分の中で印象に残らない作品になってしまっています。プロットも練られてい…

高田崇史『QED 百人一首の呪』

高田崇史 『QED 百人一首の呪』 講談社文庫 高田崇史の『QED 百人一首の呪』を読了しました。メフィスト賞受賞作ということで、ミステリー作品としては一定の捻りが加わったものであることが予想されるのですが、まさに百人一首に仕掛けられた「謎」の解明の…

吉村達也『ケータイ』

吉村達也 『ケータイ』 角川ホラー文庫 吉村達也の『ケータイ』を読了しました。王道ホラー作品という体裁のプロットで終盤における盛り上がりも十分に計算されていて、吉村達也のミステリー作品を期待して読む読者の期待に応えてくれるものになっていると思…

村上春樹/安西水丸『村上朝日堂』

村上春樹/安西水丸 『村上朝日堂』 新潮文庫 村上春樹/安西水丸の『村上朝日堂』を読了しました。かなり最初期のエッセイだと思うのですが、肩の力が抜けた作者の声を楽しむことができます。当時の作者の世界のものの見方を示すものとして興味深く読むこと…

吉村達也『iレディ』

吉村達也 『iレディ』 角川ホラー文庫 吉村達也の『iレディ』を読了しました。設定としてはやや古めかしさが感じられてしまうのですが、単なるホラー作品ではないものを描こうとする作者の意図を感じます(作者自身にはそのような企図はないのかもしれません…