文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

日本文学

村田沙耶香『殺人出産』

村田沙耶香 『殺人出産』 講談社文庫 村田沙耶香の『殺人出産』を読了しました。村田氏は恐ろしくも新しい世界を小説として表現することのできる異能の作家だと思っているのですが、本書についてもその評価は間違いなく当てはまると言っていいでしょう。10人…

大江健三郎『キルプの軍団』

大江健三郎 『キルプの軍団』 岩波文庫 大江健三郎の『キルプの軍団』を読了しました。ブレイクやダンテをはじめとして海外の文学作品を読解することをモチーフに、自身の小説の推進力としてきた大江氏ですが、本作ではディケンズの書いた『骨董屋』を読む刑…

筒井康隆『夢の木坂分岐点』

筒井康隆 『夢の木坂分岐点』 新潮文庫 筒井康隆の『夢の木坂分岐点』を読了しました。谷崎潤一郎賞受賞作ということで、随分と昔に読んだ記憶はあるのですが、いつのことだったかまでは覚えていません。あり得べき生が分岐的に展開されていくプロットは、そ…

青木淳悟『このあいだ東京でね』

青木淳悟 『このあいだ東京でね』 新潮社 青木淳悟の『このあいだ東京でね』を読了しました。何かに憑依したトレース小説という一風変わった特徴を持つ青木淳悟死の作品集です。依り代となっているのは、物理空間的な街そのものであったり、建築工学であった…

磯﨑憲一郎『往古来今』

磯﨑憲一郎 『往古来今』 文春文庫 磯﨑憲一郎の『往古来今』を読了しました。5篇の短編小説が収められた作品集です。磯﨑氏は小説でしか描けないものを表現するのが上手な作家というイメージなのですが、本書に収録されたいずれの作品も小説ならではの時間…

中村文則『王国』

中村文則 『王国』 河出文庫 中村文則の『王国』を読了しました。大江健三郎賞を受賞した『掏摸』の姉妹編といわれる作品で、前作で圧倒的な存在感を放っていた木崎という人物が本書にも登場します。前作を読んだのがいつのことだったか覚えてはいないのです…

村上龍『コインロッカー・ベイビーズ』

村上龍 『コインロッカー・ベイビーズ』 講談社文庫 村上龍の『コインロッカー・ベイビーズ』を読了しました。学生時代に読んだ記憶があるのですが、久しぶりの再読でプロットなどはすっかり忘れてしまっていました。コインロッカーから生まれ出るという強烈…

青木淳悟『学校の近くの家』

青木淳悟 『学校の近くの家』 新潮社 青木淳悟の『学校の近くの家』を読了しました。小説というかたちで何か不思議なものを表現しようとする青木氏の作風と、「小学校」という誰もが通過した場所でありながらどこか世間とは隔絶した特殊な空間とは、とても相…

阿部和重『無常の世界』

阿部和重 『無常の世界』 新潮文庫 阿部和重の『無常の世界』を読了しました。1999年の野間文芸新人賞を受賞した作品集です。「トライアングルズ」、「無常の世界」、「塵(みなごろし)」の三作が収録されています。いずれも90年代後半の空気感というものが…

保坂和志『季節の記憶』

保坂和志 『季節の記憶』 中公文庫 保坂和志の『季節の記憶』を読了しました。子どもを子どものままに、猫を猫のままに、日常を日常のままに描くことができるのは稀有な才能なのだと思うのですが、保坂氏の作品をたまに読みたくなるのはそのあたりに理由があ…

古川日出男『アラビアの夜の種族』

古川日出男 『アラビアの夜の種族』 角川文庫 古川日出男の『アラビアの夜の種族』を読了しました。物語を通じて歴史を動かそうとする試みがユニークな作品です。ただ、ちょうど同時期に読んだ星野智幸氏の『夜は終わらない』に比べると文学的な企みの面では…

星野智幸『夜は終わらない』

星野智幸 『夜は終わらない』 講談社文庫 星野智幸の『夜は終わらない』を読了しました。2015年に発表された作品で、読売文学賞を受賞しています。『千夜一夜物語』に範を取ったプロットで、結婚詐欺師である玲緒奈は死の直前に男たちに物語を語ることを促し…

村上春樹『一人称単数』

村上春樹 『一人称単数』 文藝春秋 村上春樹の『一人称単数』を読了しました。2018年から2020年にかけて雑誌『文學界』に発表された7本の短編作品と書き下ろし作品1編を含む短編集です。これまでの人生を少しずつ総決算していくというと、いささか大げさな言…

長嶋有『猛スピードで母は』

長嶋有 『猛スピードで母は』 文春文庫 長嶋有(1972-)の『猛スピードで母は』を読了しました。2002年に第126回芥川賞を受賞した表題作と、文学界新人賞を受賞した氏のデビュー作である「サイドカーに犬」の二篇が収録されています。輪郭のくっきりとした登…

乗代雄介『ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ』

乗代雄介 『ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ』 国書刊行会 乗代雄介(1986-)の『ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ』を読了しました。本書は著者が15年以上にわたって書き継いだブログ記事を著者自選・全面改稿して書籍化したものとのこと。古い…

有栖川有栖『インド倶楽部の謎』

有栖川有栖 『インド倶楽部の謎』 講談社文庫 有栖川有栖の『インド倶楽部の謎』を読了しました。最近はあまりミステリー小説を読まなくなってしまったのですが、有栖川氏の作品は気になって読んでしまいます。本書は氏の敬愛するエラリー・クイーンに倣って…

古川日出男『ハル、ハル、ハル』

古川日出男 『ハル、ハル、ハル』 河出書房新社 古川日出男の『ハル、ハル、ハル』を読了しました。2007年に出版された本書には、表題作のほかに、「スローモーション」、「8ドッグズ」という2篇の短編が収録されています。表題作は次のようなメタ的な言説か…

乗代雄介『最高の任務』

乗代雄介 『最高の任務』 講談社 乗代雄介の『最高の任務』を読了しました。芥川賞候補作となった表題作のほか、「生き方の問題」という中編作品が収録されています。「生き方の問題」は、従姉弟同士の性愛という生々しいテーマを取り扱いながら、物語の核と…

村上春樹『パン屋再襲撃』

村上春樹 『パン屋再襲撃』 文春文庫 村上春樹の『パン屋再襲撃』を読了しました。最初に読んだのは高校時代くらいのことだったか、詳しくは忘れてしまったのですが、久しぶりの再読となりました。収録策の初出は1985年から1986年にかけて、表題作のほか「象…

北条裕子『美しい顔』

北条裕子 『美しい顔』 講談社 北条裕子の『美しい顔』を読了しました。第61回群像新人文学賞の受賞作で、芥川賞の候補作にもなった本書ですが、石井光太氏のノンフィクション作品をはじめとして、参考文献の取り扱いの杜撰さが批判を集めました。本書を読ん…

森見登美彦『熱帯』

森見登美彦 『熱帯』 文藝春秋 森見登美彦の『熱帯』を読了しました。『千夜一夜物語』を導きの糸とした物語で、「熱帯」という幻の本を巡るファンタジーが展開されます。沈黙読書会などディテールの面白さと物語を発散させていく手筋は相変わらず素晴らしく…

筒井康隆『残像に口紅を』

筒井康隆 『残像に口紅を』 中公文庫 筒井康隆の『残像に口紅を』を読了しました。ネタバレを気にするという作品でもないので、本書の核となる仕掛けにも触れようと思うのですが、本書は日本語の五十音が順番に消えていくなかで書かれた小説であり、そしてそ…

J・コルタサル/O・パスほか『短編コレクションⅠ』

J・コルタサル/O・パスほか 木村榮一/野谷文昭ほか訳 『短編コレクションⅠ』 河出書房新社 池澤夏樹個人編集による世界文学全集の一冊として刊行された『短編コレクションⅠ』を読了しました。南北アメリカ、アジア、そしてアフリカから短編小説が20篇収録…

七河迦南『アルバトロスは羽ばたかない』

七河迦南 『アルバトロスは羽ばたかない』 創元推理文庫 七河迦南の『アルバトロスは羽ばたかない』を読了しました。前作の『七つの海を照らす星』を読んだのはもう何年前のことだったか、詳細な内容も含めて思い出せないのですが、その続編である本書は国内…

滝口悠生『愛と人生』

滝口悠生 『愛と人生』 講談社文庫 滝口悠生の『愛と人生』を読了しました。表題作の「愛と人生」は、映画「男はつらいよ」を題材としてそのシリーズ中のひとりの人物を語り手として、誰もが知る大衆映画の実相を不思議な遠近法で眺める小説作品です。フルネ…

古川日出男『サウンドトラック』

古川日出男 『サウンドトラック』 集英社文庫 古川日出男の『サウンドトラック』を読了しました。本書が発表されたのは2003年のことで、これは直木賞候補となった『ベルカ、吠えないのか?』の2年前、三島由紀夫賞を受賞した『LOVE』の3年前に当たる年であり…

羽田圭介『スクラップ・アンド・ビルド』

羽田圭介 『スクラップ・アンド・ビルド』 文春文庫 羽田圭介の『スクラップ・アンド・ビルド』を読了しました。第153回芥川賞受賞作です。黒々とした荒涼とした風景の中から特異なユーモアを表出させるという作風ですが、読んでいて少し疲れてしまう部分も…

吉田修一『パーク・ライフ』

吉田修一 『パーク・ライフ』 文春文庫 吉田修一の『パーク・ライフ』を読了しました。第127回芥川賞受賞作である本書ですが、ハードカバーの単行本として刊行された当時に、手にとって読んだ記憶があります。今回、何となく思い立って文庫本で読み直してみ…

村上龍『半島を出よ』

村上龍 『半島を出よ』 幻冬舎文庫 村上龍の『半島を出よ』を読了しました。2005年に刊行された本書は、15年の歳月を経て読んでみると、あらためてその(一部の)リアリティに驚かされてしまうのですが、著者の別作品からのスピンオフと思しき登場人物たちが…

星野智幸『目覚めよと人魚は歌う』

星野智幸 『目覚めよと人魚は歌う』 新潮文庫 星野智幸の『目覚めよと人魚は歌う』を読了しました。2000年に発表された三島賞受賞作です。日系ペルー人を主人公に据えた著者の視点は、その経歴からしてもグローバルなもので、ただそれだけでもフォローしたい…