J.D.サリンジャー(1919-2010)の『ナイン・ストーリーズ』を読了しました。熱狂的なファンの多いサリンジャーですが、高校生のときに本書を読んだときはあまりピンと来ることはなくて、今回の読書でも「なるほどうまいなー」と思わされた部分はあるのですが、のめり込むというほどでもなく、私にとっては相変わらず少し距離のある作家のようです。
文字通り9つの短編からなる『ナイン・ストーリーズ』ですが、最も有名なのは冒頭に置かれた「バナナフィッシュにうってつけの日」ではないでしょうか。不条理な(と感じられる)ラストシーンもそうですが、何よりもこの作品タイトルが多くの人の愛着を呼んでいるのではないかと想像しているのですが。
多くの人に語られていることだと思いますが、サリンジャーは本当に子どもを描くのがうまいなと感じます。そして同時に、大人になりきれなかった大人の姿を描くのも、とてもうまいのだと思います。「コネティカットのひょこひょこおじさん」という作品を読んで、あらためてそう感じました。
いつか沈黙を破って作品を発表してくれるのではないかと夢想されていたサリンジャーも2010年に亡くなってしまいました。彼の未発表作品が遺言に従って出版されるという話も聞いたことがありますが、いつのことになるのでしょうか。未読の作品を読みながら待ちたいと思います。
【満足度】★★★☆☆