文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ミハイル・ブルガーコフ『犬の心臓・運命の卵』

ミハイル・ブルガーコフ 増本浩子/ヴァレリー・グレチュコ訳

『犬の心臓・運命の卵』 新潮文庫

 

ミハイル・ブルガーコフ(1891-1940)の『犬の心臓・運命の卵』を読了。ミハイル・ブルガーコフの作品を読むのは初めてでした。そういえば、ソ連時代のロシア(ブルガーコフの出身はウクライナのようですが)の文学作品は読んだことがなかったなと思っていたのですが、本書を読了した後にソ連時代の文学者を調べてみたところ、学生時代にマンデリシュタームの詩などは読んでいたようです。ただ、小説作品は初めてのこと。

 

本書には『犬の心臓』と『運命の卵』という2編の中編小説が収録されています。個人的に面白く読むことができたのは『犬の心臓』の方で、当時の時代のヒリヒリとした雰囲気が、ユーモラスな語り口に隠された節々から伝わってきます。物語は傷ついて路上を歩く犬の一人称で幕を開けるのですが、生存本能に従いながら生きることに懸命で無垢な存在であった犬が、やがて保護された先で科学者の実験により「ヒト化」を開始し、知能を得てプロレタリアートの思想に共感を示していく様は、明らかに当時の世相に対する痛烈な風刺になっています。

 

『運命の卵』は『犬の心臓』に比べるとシリアスな筆致で物語が進みます。こちらの作品には一見すると政権批判のようなものは見当たらないのですが、「赤い光線」が引き起こす悲劇という構図は充分に何かを暗示しています。

 

最近仕事が忙しくなったせいで、少し読書のペースが落ちているのですが、ゴールデンウイークはゆっくり本を読む時間を作りたいですね。

 

【満足度】★★★☆☆