エーリヒ・ケストナー(1899-1974)の『飛ぶ教室』を読了しました。タイトルは良く知っていたものの、これまでに読んだことはなかった本書ですが、新潮文庫スタークラシックスの新訳を仕事の合間の車中で読み進めていました。灼熱の車の中で、クリスマスを前にした冬のドイツを舞台にした作品を読むことの奇妙さ。
ギムナジウム五年生というと、現在の日本の教育制度では中学三年生にあたる年代でしょうか。爽やかな友情物語と言ってしまうと、本作の味わいのいくらかが損なわれてしまうような気がしますし、ドイツ伝統のビルドゥングスロマンとも言い難いところがあって、結局のところシンプルに良質の児童文学と呼ぶのが最もふさわしいような気がします。
まっすぐな少年たちとそれを見守る大人たちと、その時代のちょっとした空気と、この本は私自身もまた少年と呼ばれるべき年齢の頃に出会うべき作品だったのかもしれません。物語終盤に出てくる主人公のマルティンと「道理さん」の旅費をめぐるやり取りは、抑制のきいた筆致のなかで、大人と少年との間のあるべき関係性を鮮やかに描いているように思います。
【満足度】★★★☆☆