文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ジョン・アップダイク『メイプル夫妻の物語』

ジョン・アップダイク 岩元巌訳

『メイプル夫妻の物語』 新潮文庫

 

ジョン・アップダイク(1932-2009)の『メイプル夫妻の物語』を読了しました。仕事の合間のちょっとした時間や、休みの日のぽっかりとした隙間で読み進めて、随分と足の長い読書になりました。本書で扱われているテーマからすると、ちょうどぴったりの読書ペースだったのかもしれませんが。

 

リチャードとジョウンという一組の夫婦をめぐる連作短編集とでも呼ぶべき作品です。ただ、もともと連作として意図された作品であったわけではなく(実際のところはわかりませんが)、本書の冒頭に収められた「グレニッチヴィレッジに雪が降る」という作品は、アップダイクの初期短編集『同じ一つのドア』で読んだことがあるもので、その後、登場人物を同じくする作品が書き継がれていったという事情のようです。

 

夫婦と男女の関係の間を微妙に揺れ動きながら交わされるリチャードとジョウンの会話の一つひとつが印象に残る作品です。その一方で、十分に成長し大人になったと思っていた子どもたちが両親の別居を伝えられたときに見せる繊細な動揺の様子について、それをみごとに掬い上げてみせるアップダイクの筆のうまさにも感心させられるのでした。

 

怒涛のような忙しい日々が続いていますが、何となくこれからは読書の時間を取れそうな気もしています。少し肌寒さも感じるようになってきて、やはり読書は暑い季節よりも寒い季節の方が捗るのではないかと思う次第です。

 

【満足度】★★★★☆