文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

カルミネ・アバーテ『風の丘』

カルミネ・アバーテ 関口英子訳

『風の丘』 新潮社

 

カルミネ・アバーテ(1954-)の『風の丘」を読了しました。イタリア南部生まれで少数言語アルバレシュ語が話される環境で育ち、かつてはドイツ語で小説を発表したこともあるというカルミネ・アバーテ。同じく新潮クレスト・ブックスから翻訳が出版されている『ふたつの海のあいだで』を面白く読んだことがきっかけで、本書も手に取ってみました。

 

架空の土地でありながら、著者の故郷を思わせる南部イタリアの村を舞台に、第一次世界大戦から現代にわたって、家族四代の姿を描く大河小説です。こう言ってしまうと身も蓋もないのですが、『ふたつの海のあいだで』とほぼ同じような舞台設定で、なぜ私が本作にここまで心を惹かれてしまうのか、その理由をうまく表現することができません。本書に登場する家族の持つ生命力のようなものに、何らかのパワーをもらおうとしているというのが近い表現かもしれません。

 

土地への結びつきというものを、そのネガティブな側面についても触れながら、力強く肯定してみせる本書は、今の私に出会われるべき本だったのだと思います。本書の「僕」と、周囲から狂人と噂されながら生まれた地で原始的な生活を送ることを選んだ父が、本書のラストシーンで「僕の人生でもっとも大切な、最高の抱擁を交わす」ことができるのも、この土地が秘めたマジックのおかげ。自分の人生をしっかり肯定してくれたような気がするからこそ、本書を読んで爽やかな気分になることができるのでしょう。

 

南イタリアカラブリア州。いつか行ってみたいとも思うのですが、行かない方が良いのかもしれないとも思います。Googleストリートビューで眺めて、ひとまずは満足しているところ。

 

【満足度】★★★★★