グレアム・スウィフト 真野泰訳
『マザリング・サンデー』 新潮社
グレアム・スウィフト(1949-)の『マザリング・サンデー』を読了しました。新潮クレストブックスで本編が162ページ、中編小説というべき長さの作品です。各所でわりと話題になっている本ですね。グレアム・スウィフトは現代イギリスの代表的作家のひとりということですが、作品を読むのは初めてのことでした。
1924年3月のある暖かな日に、ひとりのメイドが(自分が仕える屋敷ではない)無人の屋敷を裸で歩き回るという鮮烈なイメージ。タイトルの「マザリング・サンデー」とは、一年に一日、実家の母を訪ねることができるように使用人たちに半日の休みが与えられる日のこと。天涯孤独の身である主人公のジェーンは、この日に愛人であるポール(別の屋敷の跡取り息子)に会うために自転車を走らせます。
その1924年3月のマザリング・サンデーを、その後作家になったメイドが70年後から振り返るという構成を取ることで、その日が日常の中に何度も現れる単なる一日ではなく、何か特別な日であることが強調されているいように思われます。フィクションの作法としては、裸で無人の屋敷を歩き回るメイドというイメージが惹起する刺激や違和感は重要なことなのでしょうが、たとえそれがなくてもその一日が特別なイニシエーションの日であったことは、物語の展開が明らかにしていきます。「よくできた作品」と各所で言われる所以もよく理解できます。
疲労が残る三連休が終わると、また怒涛の忙しい日々が始まるのですが、引き続き読書のための時間を確保することはできるのでしょうか。
【満足度】★★★★☆