文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

レイ・ブラッドベリ『華氏451度』

レイ・ブラッドベリ 伊藤典夫

華氏451度』 ハヤカワ文庫

 

レイ・ブラッドベリ(1920-2012)の『華氏451度』を読了しました。新訳として2014年に出版された版です。最近はフィリップ・K・ディックの翻訳も多く本屋で見かけますし、SFの復刊が進んでいるのでしょうか。1953年に出版された本書はSFの古典と呼んでもいい作品であると同時に、代表的なディストピア小説であるといわれることもあるようです。

 

タイトルでもある「華氏451度」とは書物が引火して燃えてしまう温度のことで、日本人になじみのある摂氏に直すと232.778度となるようです。本作の主人公の職業でもある「Fireman」は書物が禁忌とされる世界にあって、その書物を焼き払う使命を担う仕事に従事する人のこと。「消火士」ならぬ「昇火士」という訳語が当てられているのが面白いのですが、これまで何の疑問も抱くことなく昇火士の使命に殉じてきた主人公がいくつかの出来事をきっかけにして、自分たちの仕事に疑問を抱くことで本書の物語は展開していきます。

 

物語の前半に登場して主人公に大きな影響を与えることになる少女クラリスがあまりにも唐突に物語から退場してしまったり、この世界の背景をなしているはずの「書物が禁忌とされる理由」を読者に納得させるための努力がいささか足りないように見られるなど、正直いくつかの瑕疵が目についてしまいました。本書のラストシーンのイメージはとても美しく、ここへと至るまでの過程に対して粗雑さが感じられてしまうのでした。

 

週末にもなかなか休みが取れない日々が続いていますが、それでも読書の時間は確保できていることに感謝して(誰に?)、体調に気を付けながら過ごしていきたいと思います。

 

【満足度】★★★☆☆