文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ドン・デリーロ『コズモポリス』

ドン・デリーロ 上岡伸雄訳

コズモポリス』 新潮文庫

 

ドン・デリーロ(1936-)の『コズモポリス』を読了しました。ドン・デリーロは現代アメリカを代表する作家のひとりで、ノーベル文学賞候補とも目されています。本書は2003年に発表された作品で、文学界で交友のあるポール・オースターに捧げられています。逆にポール・オースターの『リヴァイアサン』にはドン・デリーロへの献辞が示されています。

 

本書の主人公エリック・パッカーは生き馬の目を抜く金融業界の寵児で、若干20代にして巨億の資産を持つ人物です。ハイテクリムジンでニューヨークの街を進みながら仕事をし、女性たちと性交し、床屋で髪を切ったりするエリックの一日を追う。外形的にはそんな感じの小説です。日本円の変動で莫大なマネーを失いそうになろうが、暗殺者の影が周囲をちらつこうが、彼はそれを意に介することなく、ひたすらに何かを求めて彷徨を続けます。

 

身体性の多様さを十全に意識して、その多様さを通じて世界との新たな関わり方を模索するというアプローチには興味を惹かれる部分があって、特にエリックが映画撮影のために裸で路上に横たわる人々の群れに紛れ込むシーンは印象的なのですが、そこから得られるものの光や影については、私自身がまだよく認識できていないような気がします。そのためか、面白く読むことはできたのですが、どこか物足りなさも残る読書体験となりました。

 

秋ですが比較的暖かい日々が続いています。しかし、仕事の方はピークを迎えてどうにも苛々した気分が収まらない状態です…

 

【満足度】★★★☆☆