文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ヘンリー・ジェイムズ『ねじの回転』

ヘンリー・ジェイムズ 小川高義

『ねじの回転』 新潮文庫

 

ヘンリー・ジェイムズ(1843-1916)の『ねじの回転』を読了しました。神秘主義思想家スウェーデンボルグを信奉する父のもと裕福な家庭で育ったヘンリー・ジェイムズは、子どもの頃から生誕地であるニューヨークとヨーロッパを頻繁に行き来する暮らしを送り、「国際もの」と呼ばれる初期の作品はそうした彼の生い立ちを反映したものと言われているようですが、本書『ねじの回転』はジェイムズ中期の作品で、幽霊話というゴシックホラーの趣きを備えたストーリーには、どちらかというと、父から受け継いだ神秘思想の影響が見て取られるかもしれません。

 

プラグマティズムを提唱し、徹底的な心理分析を行った兄ウィリアム・ジェイムズばりの「意識の流れ」の複雑な技法はまだ影を潜めているとはいえ、作中作の構造のもとで一人称で語られる「私=家庭教師」の物語は充分に企みが巡らされたもので、読者に相応の注意を促すものになっています。その結末や「真相」をめぐって既に多くのことが語られている本書については、その前提知識のおかげで純粋な読みが許容されない雰囲気もいくらかあって、一つひとつ何かを確認するような読書になってしまったのでした。

 

【満足度】★★★☆☆