文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

アリス・マンロー『イラクサ』

アリス・マンロー 小竹由美子訳

イラクサ』 新潮社

 

アリス・マンロー(1931-)の『イラクサ』を読了しました。アリス・マンローは2013年にノーベル文学賞を受賞したカナダの作家で、短編の名手として知られています。その読後感は“一冊の長編小説を読んだかのよう”だそうです。私が彼女の作品集を読むのは同じく新潮クレスト・ブックスから出ている『ジュリエット』に次いで二冊目です。

 

本書には合計9作の短編が収録されていて、原書の表題作となっているのは冒頭に配された「恋占い(原題は“Hateship, Friendship, Courtship, Loveship, Marriage”)」なのですが、邦訳書のタイトルには別作品「イラクサ」が選ばれています。個人的には何となくこういう点が気になってしまうのですが、まあそれはそれとして。読者が作品の冒頭で出会うシーンが、「嫌い、友達、求愛、恋人、結婚」という数え占いに象徴される子どもの無邪気さと無責任さから引き起こされた結果であることに気付かされるという物語の構成は面白く、たしかに短編を読みながらにして長編を読んだかのような読後感を覚えると評されることにも納得がいきます。

 

長年連れ添った認知症の妻が、施設で出会った別の認知症男性に恋心を抱いていることを知ったときに、夫がどんな行動を取るかを描いた「クマが山を越えてきた」は、設定だけを見れば感動の純愛物語にできそうなプロットです。しかしそれが決してシンプルな純愛ものにまとまらないところがアリス・マンローの真骨頂で、登場人物が抱え込んでいるはずの、ずっしりとした人生の手ごたえのようなものが、決してそのような物語の進み行きを許さないのではないでしょうか。

 

【満足度】★★★★☆