文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

サン=テグジュペリ『夜間飛行』

サン=テグジュペリ 堀口大學

『夜間飛行』 新潮文庫

 

サン=テグジュペリ(1900-1944)の『夜間飛行』を読了しました。高校時代に読んで以来の再読です。本書には『夜間飛行』に加えてサン=テグジュペリの処女作でもある『南方郵便機』が収録されています。チック・コリアのアコースティック・バンドが演奏する「terminal baggage claim」を聞きながら本書を読んでいたことをよく覚えています。

 

冷静に考えると『夜間飛行』の主人公であるリヴィエールに共感するにはさすがに高校生では若すぎると思うのですが、高校時代の私はたしかに、夜間飛行にかける男たちのロマンのようなものを理解するとともに、リヴィエールの酷薄さに潜むプロフェッショナルな意識に共感を覚えていたように思います。そして社会人になって仕事に明け暮れる日々を送る今、本書を読んで感じるのは、仕事とは決して人生のすべてを賭けるに値するものではないという苦い感傷なのでした。

 

彼がもし、たった一度でも、出発を中止したら、夜間飛行の存在理由は失われてしまう。あす、彼リヴィエールを非難するであろう彼ら気の弱い者どもを出し抜いて、彼はいま、夜のなかへ、この新しい搭乗員を放してやるのだ。

 

夜間飛行が人間の尊厳を象徴するものであるというリヴィエールの確信は、今の時代にどこまでの共感を呼ぶでしょうか。「事業と、個人的幸福は両立せず、相軋轢するもの」という端的な認識を持つリヴィエールは、同時に、夫である飛行士ファビアンの無事を心配するその妻に対して、彼女の持つ権利を当然のものとしても認めています。それでは読者である私たちは、リヴィエールとファビアンの妻、どちらの立場に立つのでしょうか。

 

久しぶりの読書で感じたのは以上のようなことでした。この物語はひとつの叙事詩でありながら「お仕事小説」としても読むことができるようです。

 

【満足度】★★★★☆