J. アナス・J. バーンズ 金山弥平訳
J. アナス・J. バーンズの『古代懐疑主義入門 判断保留の十の方式』を読了しました。原著は1985年に出版されています。アリストテレスに続く古代西洋哲学の時代であるヘレニズム時代に、世界史にも登場するストア派やエピクロス派と並んで哲学上の重要な「派閥」のひとつであったのが古代懐疑主義。この懐疑主義はデカルトによって近世哲学の舞台に登場して、以後、西洋哲学の認識論の影のフィクサーであり続けることになります。しかし、その源流である古代懐疑主義については、これまでまとまった文献を読む機会を持つことができず、今回(とはいえ2015年のことですが…)本書が手に取りやすい岩波文庫で出版されたことは私にとっては大変喜ばしいことです。
近世以降の懐疑主義が攻撃したのは「知識」であり、古代の懐疑主義が攻撃したのは「信念」であった…という指摘や、生活から気苦労を取り除き、幸福を保証してくれるものとしての懐疑という古代懐疑主義の掲げるテーゼは新鮮に感じられました。この実践的なスタイルは何だか21世紀の現代においてこそ(とりわけ若い世代において)重宝されそうな気もするのですが、ともかくも本書は岩波文庫の青版に収められるべき良書だと思います。
【満足度】★★★★☆