文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ジョゼ・サラマーゴ『白の闇』

ジョゼ・サラマーゴ 雨沢泰

『白の闇』 NHK出版

 

ジョゼ・サラマーゴ(1922-2010)の『白の闇』を読了しました。本書はポルトガルの作家でノーベル文学賞を受賞しているジョゼ・サラマーゴの代表作です。訳者あとがきによると日本語訳の底本は英訳版で、適宜ポルトガル語の原本を参照したとのこと。サラマーゴさんの作品を読むのは『見知らぬ島への扉』に続いて二冊目です。短い寓話であった先の作品とは違って、本書は大部の長編でいわゆる小説らしい小説であるといえます。

 

突然にして視界が白い闇に覆われて、失明(この事態を「明かりを失った」と表現するのが妥当なのかどうかは解りませんが)してしまう人々の姿を描いた作品です。登場人物は「医者」や「車泥棒」などの記号的名前で呼ばれ、その点では作品中に寓話的な雰囲気も漂っています。とはいえストーリーラインはいたってリアルであり、伝染病に罹患したと疑われた患者たちはかつて精神病院であった施設に隔離されます。視界を失った人々は秩序だった排泄行為すらままならず、患者が増えるたびに施設は悪臭に包まれていきます。患者同士においても搾取するものと搾取されるものとが生まれます。

 

面白かったような、そうでもないような不思議な読後感です。会話文においても鍵括弧は用いられることなく、地の文がだらだらと続くような文体でディストピアと化した世界の様子が語られていくわけですが、何となく漫画を読んでいるような感覚もあります。鋭さと共に、サブカル的な軽さがあるというか、そんな感覚が、面白いようなそうでもないようなという感想に繋がっているのかもしれません。

 

もう少し若いときに読むとまた違った印象を持ったのかもしれませんが。

 

【満足度】★★★☆☆