文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

エミール・ゾラ『獣人』

エミール・ゾラ 川口篤訳

『獣人』 岩波文庫

 

エミール・ゾラ(1840-1902)の『獣人』を読了しました。この岩波文庫の翻訳は初版が1953年の出版で、旧字体で書かれています。2018年春の復刊で6刷目のようです。全20作からなるというルーゴン・マッカール叢書の一冊で、私が読むのは『居酒屋』、『ナナ』について三冊目です。本書の主人公は「女の肌を見ると殺したくなる異常性格に悩む機関士ジャック」(本書カバーの粗筋より)で、ここだけを見るとまるで20世紀末頃に大流行したサイコスリラーのようです。このジャックと『居酒屋』や『ナナ』の登場人物との関係については、Wikipediaなどに詳細な家系図が掲載されています。

 

本書の前半は、駅の助役であるルゥボーが妻を慰み者にした人物を嫉妬に駆られて殺害し、その殺害現場をジャックが目撃するという事件を軸に進んでいきます。探偵小説めいた筋書は、やがてジャックとルゥボーの妻であるセヴリーヌの道ならぬ恋に行き着くのですが、その恋は最後にはジャックの内に秘められた獣性によって悲劇的な結末を迎えます。煽情的なプロットや人物造形よりも機関車の描写の方に迫力があって、それがこの作品のトーンを決定づけているのだと感じられます。

 

【満足度】★★★☆☆