文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

アゴタ・クリストフ『第三の嘘』

アゴタ・クリストフ 堀茂樹

『第三の嘘』 ハヤカワ文庫

 

アゴタ・クリストフ(1935-2011)の『第三の嘘』を読了しました。『悪童日記』と『ふたりの証拠』とあわせて三部作を成している作品です。本書の原題は“Le Troisième Mensonge”で『第三の嘘』という邦訳のタイトルは完全に直訳になります。

 

本書は前二作に登場した主人公の双子である「リュカ」と「クラウス」と「思われる」人物をそれぞれの語り手とした二部構成の物語です。しかし、本書の解説でも指摘されている通り、前二作で描かれた双子の人生と本書に登場する語り手が回想するそれぞれの人生とは掛け違えられたボタンのようにチグハグで、奇妙なものになっています。三部作の原点である『悪童日記』の原題である「大きなノート(Le Grand Cahier)」というもの自体が、双子が記述する作中作とでも呼ぶべき存在であるわけですが、何が真実で何が虚構なのかが判然としないままに本書の物語は進んでいきます。

 

悪童日記』の語り手が「ぼくら」であったように、また“LUCAS”と“CLAUS”という双子の名前(とされるもの)自体がアナグラムをなしているように、ある意味で等価交換可能なものとして描かれてきた双子の運命は、本書においては鮮烈なコントラストを生んでいるのですが、個人的には「両者の運命はどちらでもあり得た」という偶然性こそが心に残るものだったと感じました。

 

【満足度】★★★☆☆