文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

イアン・マキューアン『土曜日』

イアン・マキューアン 小山太一

『土曜日』 新潮社

 

イアン・マキューアン(1948-)の『土曜日』を読了しました。ロンドンに住む脳神経外科医ヘンリー・ペロウンの目覚めから眠りに至るまでの一日、その土曜日を描いた作品です。

 

奇妙な多幸感に満たされて始まったペロウンの一日は、彗星と見まごうばかりの炎を上げながら空港へと向かう飛行機を目撃したところから、薄皮を隔てた先にある不安を胚胎したまま進行していきます。やがてその不安は夕刻の家族団らんの時間を打ち破る脅威となって出現するのですが、その脅威の解消のされ方もまたマキューアンらしいというか、何というか、思わぬ収束を見せることになります。あまり詳しくは書きませんが、この夕刻の脅威の場面に見られる作家の「力業」のグロテスクさこそが、マキューアン作品の魅力であり、私が本質的にはあまり好きにはなれない部分なのだと思います。とはいえ、読み続けてしまう作家なのです。

 

【満足度】★★★☆☆