文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

諏訪哲史『アサッテの人』

諏訪哲史

『アサッテの人』 講談社文庫

 

諏訪哲史の『アサッテの人』を読了しました。群像新人文学賞芥川賞をダブル受賞した作品です。カバーにある粗筋をそのまま引用すると「吃音による疎外感から凡庸な言葉への嫌悪をつのらせ、孤独な風狂の末に行方をくらました若き叔父」をめぐる物語です。

 

本書における「アサッテ」は、語り手(主人公)の叔父さんが不意に操る奇妙な言語を通じて至ろうとしている「世界の外」側を表現するための言葉として選ばれたものです。「アサッテ」へと向かう試みは、無人のエレベーターの中で頭の上に両手でチューリップを作る「チューリップ男」の行為とも類比的に語られるのですが、それが叔父さんにとって言語の問題として現れたのは、すなわち彼の世界との手の結び方・離れ方の鍵になるものとして言語があったということなのでしょう。そしてそれは作者にとってもそうであったということなのかもしれません。

 

面白く読むことができました。

 

【満足度】★★★★☆