戸田山和久の『科学的実在論を擁護する』を読了しました。電子やクォークのような、実際に目で見たり手で触ったりして確かめることができないような科学的理論(の対象)が、本当にこの世界において実在していると主張するのが「科学的実在論」です。そしてその反対の立場が「反実在論」なのですが、20世紀の科学哲学の歴史は良くも悪くも、この科学的実在論と反実在論による論争の歴史という側面を持っています。
本書はそのタイトルにあるように「科学的実在論を擁護する」ことを目的としていますが、その擁護の仕方は必ずしもストレートなものではありません。むしろ膠着状態に陥っている科学的実在論と反実在論の論争を通じて浮かび上がってきた科学のありさまを掬い取ることこそが重要なのであって、そのためには「擁護に値するミニマルな実在論」を提唱することで十分であると本書の論述は締めくくられています。
氏の以前の著作に比べると随分とトーンダウンした印象もある本書の結論ですが、その主張自体は首肯させられるものだと感じます。公理系に代わるアプローチとしての「モデル」の考え方や、いささかややこしい道具立てのように思われる「半実在論」の主張など、うまく飲み込めなかった部分も多いのですが、科学的実在論論争が陥っている隘路の存在だけは実感を持って感じられました。
【満足度】★★★★☆