文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ジョン・アップダイク『結婚しよう』

ジョン・アップダイク 岩元巌訳

『結婚しよう』 新潮文庫

 

ジョン・アップダイク(1932-2009)の『結婚しよう』を読了しました。アップダイクの作品を読むのは、たしかこれで五作目になるのでしょうか。本書のタイトルは『結婚しよう(原題 Marry Me)』で、本書のカバーに記された粗筋では「長い夏の日のラブ・ストーリー」とありますが、本書は端的にいうと「不倫」の話であり、もう少し本質的なことをいうと、「夫婦」というものを裏側から見た話なのだと思います。

 

ニューヨーク在住の主人公ジェリーとサリーはお互いに配偶者のいる身でありながら(さらにいえば、それぞれ子どももいます)、不倫関係にあります。お互いにそれぞれの配偶者とは既に冷え切った関係にあると考えていて、両者の関係は単なる火遊びといったものに留まるものではなく、思いを募らせたサリーはワシントンに出張しているジェリーのもとに衝動的に駆けつけてしまいます。そして、いきなり出張先にまで押しかけてきたサリーに内心では呆れながらも、ニューヨークへの空路便に遅れが出て空席待ちをさせられている間に、ジェリーは衝動的に「結婚しよう」とサリーに伝えます。

 

その後、ジェリーとサリーはお互いの結婚生活を終了させ、新しい道を歩もうと進み始めるのですが、ジェリーの妻であるルース、そしてサリーの夫であるリチャードの視点からもその顛末が描かれ(実はルースとリチャードも以前に愛人関係にあったことが語られるのですが)、一筋縄ではいかない夫婦というものの有様が静かな筆致で描写されていきます。現在の結婚生活から、新たな結婚へと歩んでいく道のりの途上に、夫婦というものの真理の一端が現れてきます。

 

【満足度】★★★★☆