文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ナボコフ『絶望』

ナボコフ 貝澤哉

『絶望』 光文社古典新訳文庫

 

ナボコフ(1899-1977)の『絶望』を読了しました。本書はナボコフがロシア語で著して、彼が37歳のときにベルリンで出版された作品のロシア語版の翻訳です。ナボコフ作品のロシア時代の(ロシア語の)作品の邦訳が進んできていて、ひとりの文学ファンとしては嬉しい限りです。

 

本書は自分と瓜二つの男を身代わりにした保険金殺人を企てる男の物語で、犯罪小説の体裁を取りながら、そこかしこにナボコフらしい引用や当てこすり、言葉遊びやアイロニーが仕込まれています。とても読みやすい作品ですし、純粋に物語を楽しむこともできます。終盤の「ステッキ」のくだりではナボコフの真骨頂が発揮されるのですが、もう一度全編を読み直してみると、きっと楽しい驚きに満ちているに違いないのだろうと思わされます。

 

【満足度】★★★★☆