文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

多和田葉子『尼僧とキューピッドの弓』

多和田葉子

『尼僧とキューピッドの弓』 講談社文庫

 

多和田葉子の『尼僧とキューピッドの弓』を読了しました。日本語とドイツ語の両方で作品を発表している多和田さんの作品を読むのは今回が初めてのことになります。作品の舞台はドイツの田舎町にある尼僧修道院。本書の解説によると、この作品がうまれたきっかけは実際のドイツの尼僧修道院が作家を招いて修道院での生活を体験してもらうという企画のようです。

奇妙なあだ名によって認識される尼僧たちとのふれ合いの様子が、修道院を訪れた日本人によって語られるという本書の構成は、まさにその描写の下敷きになったと考えられる現実世界における企画をなぞったもののように思われます。しかし、このフィクションのなかには、現実感を覚えさせながらも、どこか現実と乖離した不思議な空気が流れていて、奇妙な感覚を覚えさせられる読書体験となりました。

 

【満足度】★★★☆☆