莫言 井口晃訳
『赤い高粱』 岩波現代文庫
莫言の『赤い高粱』を読了しました。中国のノーベル賞作家である莫言は筆名で「言う莫(なか)れ」を意味するそうです。現代中国の作家の作品を読むのは、たぶんこれが初めてのことだと思います。
解説によれば、本書には連作中篇というべき作品群のうちの二作が収録されています。第一章「赤い高粱」の方がより現在の時間軸に近く、第二章「高粱の酒」ではそれに先立つエピソードが主に描かれています。とはいえ、各章自体のなかで時制は自由に変化して、一族の歴史が重層的に語られていきます。
莫言の作品を語るときに、ガルシア=マルケスや「マジックリアリズム」というキーワードが用いられるのをしばしば耳にするのですが、本作を読んだ限りではその影響関係というものは、私にはあまり感じられませんでした。中国という国の懐の広さというか、「何が起きても不思議ではない」という感覚が、マジックの存在感を薄めさせているのかもしれませんが。
【満足度】★★★☆☆