文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

アンドレ・ジイド『贋金つくり』

アンドレ・ジイド 川口篤訳

『贋金つくり』 岩波文庫

 

アンドレ・ジイド(1869-1951)の『贋金つくり』を読了しました。ジッド(という表記の方がなじみがあるのでこうしますが)といえば『狭き門』など、思想的な清貧を前面に出した作風という勝手な思い込みがあったのですが、本作はなかなか趣向を凝らした構成となっていて、「モダニズム」作家としての面目躍如(?)といったところでしょうか。

 

本書はいわゆる群像劇というか、語り手を固定せずに様々な視点人物から物語が綴られていきます。タイトルにも登場している「贋金つくり」は、ストーリーの面では少年たちが手を染める通貨偽造という本書の筋立てのごく一部を成しているに過ぎないのですが、本書の登場人物であり作家であるエドゥワールが構想し、書き綴っていく小説のタイトルが『贋金つくり』であるとされており、見逃せない点となっています。

 

エドゥワールが『贋金つくり』の本質的主題として語るように、現実の世界とそれに対する私たちの表象との間の競合こそが問題なのだとすれば、贋金使用事件と少年のピストル自殺という二つの現実の出来事に着想を受けてジッドが構想したという本書が、果たしてその表象の観念性を超え出て(あるいは決して超え出ることなくそれ固有の価値を持って現実と対峙して)いくことができたのかどうかという点が問題になるわけですが、それに対しては「否」という答えを返さざるを得ないような気もします。むしろその真価が問われるのは続く20世紀に他の作家たちによって展開された「新しい小説」においてなのかもしれませんが。

 

【満足度】★★★★☆