文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ウラジーミル・ソローキン『青い脂』

ウラジーミル・ソローキン 望月哲男・松下隆志訳

『青い脂』 河出文庫

 

ウラジーミル・ソローキン(1955-)の『青い脂』を読了しました。ソローキンの作品を読むのも、現代ロシア文学(本書の原著が出版されたのは1999年のこと)に触れるのも、今回が初めての経験です。

 

特異な言語を操りながら、文学者のクローン(「ドストエフスキー2号」や「ナボコフ7号」!)を使役して「青い脂」を生み出すボリス・グローゲルをめぐる近未来世界の物語と、スターリンフルシチョフとの性生活に励むパラレルワールドめいた世界の物語と、大別して本書には二つの時制があるようです。そのいずれもが下品で不可思議な表現(エロ・グロ・ナンセンス)に貫かれていて、文庫本にして600ページほどの分量を読み進めていると、いささか辟易してしまうところもあります。

 

ただクローン文学者の作品部分は無類に面白く、細かい文体模写(ロシア語はまったく解りませんが、それでも似ているのは何となく解るものでした)に加えて、いささか過剰に「癖」を強調してみせる手筋など、ものまね芸のセオリーをしっかりと踏襲したものになっていて感心させられました。

 

【満足度】★★★☆☆