文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

W・サローヤン『パパ・ユーア クレイジー』

W・サローヤン 伊丹十三

『パパ・ユーア クレイジー』 新潮文庫

 

W・サローヤン(1908-1981)の『パパ・ユーア クレイジー』を読了しました。本書は昭和63年発行の新潮文庫で、ピンク色の背表紙に懐かしさを覚えます。「今月の新刊」と書かれた帯には「想像力と数百円 新潮文庫」というコピーが付されていて、本書の定価は280円。物価水準が違うとはいえ、本当に本の値段が高くなってしまった現在と比べて、また違う感慨も覚えてしまいます。

 

カリフォルニア州の海辺の町・マリブを舞台に、父と子の生活を切り取った小説です。子どもを書くのがとても上手なサローヤンですが、本書でもその腕は冴えわたっています。父と子の間で交わされる、生き生きとした言葉遊びのやり取りは、それ自体何ということのない文章なのですが、読まされてしまいます。

 

サローヤンの小説が本質的に持っている前向きさのようなものは、本書からもよく感じ取ることができて、それは小説を書くようにと息子に諭す次のような父の言葉によっても言い表されています。

 

「作家というものはこの世界に恋をしていなきゃならないんだ。さもなければ彼は書くことができないんだ」

「どうして書けないの?」

「それはね、善いものはすべて愛から発するからさ。作家がこの世界に恋している時、彼はすべての人に恋しているわけだ。そこのところを本気で追及してゆけば彼は書くことができるのさ」

 

映画監督の伊丹十三氏による翻訳というのも珍しいです。

 

【満足度】★★★★☆