文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ミシェル・ウエルベック『ショーペンハウアーとともに』

ミシェル・ウエルベック 澤田直

ショーペンハウアーとともに』 国書刊行会

 

ミシェル・ウエルベックの『ショーペンハウアーとともに』を読了しました。現代フランスを代表する作家のひとりであるミシェル・ウエルベックが、20代のときに出会って決定的な影響を受けたという哲学者ショーペンハウアーのコメンタリー(のようなもの)として書かれたのが本書です。しかし、本書の序文によれば、このショーペンハウアーの注釈書を書くというプロジェクトは志半ばで途中放棄されたようです。しかし、その途中放棄の原因が何であるのかということ、また、それではなぜ一体本書が世に出たのかといった当然の問いに対しては、この序文は何の回答も与えてくれません。

 

ウエルベックの小説が(通俗的な意味ではなく、狭い意味で)哲学的であるということは作品を通して感じていたことなのですが、なるほど彼の根本にある思想が古今の哲学者に真剣に取り組んだことによって鍛えられたものだとすれば、腑に落ちる部分も多いように思います。本書がショーペンハウアーの「解説書」として優れているとは決して思わないのですが、ウエルベックの作品世界の背景を成すものに触れるという意味では、手に取る価値のある書物だとは思います。

 

【満足度】★★★☆☆