文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

リチャード・パワーズ『舞踏会へ向かう三人の農夫』

リチャード・パワーズ 柴田元幸

『舞踏会へ向かう三人の農夫』 河出文庫

 

リチャード・パワーズ(1957-)の『舞踏会へ向かう三人の農夫』を読了しました。現代アメリカを代表する作家パワーズですが、本書は彼のデビュー作で1985年に出版されました。訳者あとがきによればパワーズは24歳のときに本書を「絶対誰も読まないだろうという確信の元に」書いたとのこと。

 

本書の表紙カバーにも用いられている、アウグスト・ザンダーの一枚のポートレート写真を軸にして展開されていく三様の物語によって、本書のプロットは構成されています。デトロイトでの待ち時間で訪れた美術館で三人の農夫の写真に出会う男(思索的な労働者)、1914年に撮影されたその写真に登場する三人の「農夫」、そしてパレードで見かけた赤毛の女性を探すうちに奇妙な遺産相続話に巻き込まれていく業界誌編集者。これらのエピソードが順番に語られることで、読者の前には自然と20世紀のアメリカとヨーロッパの歴史が立ち上がってくるというのが本書の構造です。

 

期待して読みましたが、評判に違わずデビュー作とは思えない出来栄えの作品でした。少し褒められすぎのような気もするのですが。

 

【満足度】★★★☆☆