文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

J・M・クッツェー『世界文学論集』

J・M・クッツェー 田尻芳樹訳

『世界文学論集』 みすず書房

 

J・M・クッツェー(1940-)の『世界文学論集』を読了しました。作家と並行して文学研究者としてのキャリアも積んでいるクッツェーは数冊の評論集を出版しており、それら評論集から独自にセレクトされ、一冊の評論集として編まれたのが本書です。エリオット、ベケットカフカといった20世紀を代表する文学者の評論をはじめ、エラスムスなど古典についても触れられています。

 

カフカの『巣穴』における時間、時制、アスペクト」など、プロパーの研究者ならではの論考には驚かされます。二次文献への目配りが効いた研究者の論文です。また、トルストイ、ルソー、ドストエフスキーのそれぞれの「告白」の様式と思想についての論考は、私が後期のトルストイ作品に感じていた違和感を解消してくれるものでした。自己反省に伴うパラドクスもうまく消化されていて、とても読み応えのある評論でした。

 

優れた作家は優れた読者でもあるということだと思いますし、同じ南アメリカ出身の作家であるゴーディマとの距離感なども感じられ、クッツェーという人の立ち位置もよく見えてくる一冊になっていると思います。

 

【満足度】★★★★★