文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

Richard Wright “Native Son”

Richard Wright

“Native Son” Harper Perennial


リチャード・ライト(1908-1960)の“Native Son”を読了しました。本書には『アメリカの息子』という1972年にハヤカワ文庫に収められた邦訳がありますが、入手しづらい状況が続いています。現在ではあまり読まれなくなっているということの証左なのかもしれませんが、私自身は黒人文学の金字塔とも呼ばれた本書をずっと読みたいと思っていて、「それならばいっそ」とこのたび英語で読み進めることにしました。

 

本書は主人公である二十歳の黒人青年 Thomas Bigger が勤め先の白人家庭で起こしてしまう犯罪を軸に物語が進んでいく、現代風にいえば、いわばクライムノベルなのですが、その物語を通じて作者であるライトは、既製のステレオタイプに抗う仕方で「黒人」というものを描こうと試みています。プロットについて細かく語ることは止めておこうと思いますが、装飾の少ないシンプルなセンテンスで力強く語られるメッセージが印象的です。

 

Biggerが犯してしまう第二の犯罪場面の切なさや、弁護士Maxの気迫のこもった弁論など、読みごたえのある場面は多いのですが、やはりラストシーンのBiggerとMaxの会話が心に残ります。Biggerの魂の叫びをどのように受け止めたかによって、本書の印象も変わってくるのだろうと思います。

 

折しもアメリカでは黒人男性の死亡事件をめぐって暴動が起きている状況で、いろいろと考えさせられます。

 

【満足度】★★★★★