文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ハーマン・メルヴィル『幽霊船 他一篇』

ハーマン・メルヴィル 坂下昇訳

『幽霊船 他一篇』 岩波文庫

 

ハーマン・メルヴィル(1819-1891)の『幽霊船 他一篇』を読了しました。本書には、『白鯨』の作者として知られる、19世紀を代表するアメリカの作家メルヴィルの中篇小説が二作収録されています。

 

表題作の「幽霊船」はいわゆる典型的なゴシック小説で、これはこれで楽しく読むことができましたが、やはり気になるのはもう一篇の「バートルビー」の方です。一種の不条理小説として近年でも言及されることの多い作品ですが、“I would prefer not to”(本作では「ぼく、そうしない方がいいのですが」という訳が当てられています)という台詞でもって、すべてを拒絶的な宙ぶらりんの状態においてしまうバートルビーの姿に、読者は何かを感じずにはいられません。

 

本作の「現代性」がどこまでメルヴィルによって意図されたものであったかは解らないのですが(本作の末尾で語れるバートルビーの過去に関するエピソードは余計なものに思われるのですが)、さすがメルヴィルの豪腕というところでしょうか。

 

【満足度】★★★★☆