文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

カルミネ・アバーテ『偉大なる時のモザイク』

カルミネ・アバーテ 栗原俊秀訳

『偉大なる時のモザイク』 未知谷

 

カルミネ・アバーテ(1954-)の『偉大なる時のモザイク』を読了しました。本書は『帰郷の祭り』に続いて2006年に発表された作品のようです。作者自身の生まれ故郷を思わせるイタリア南部のカラブリア州の村を舞台に、かつてアドリア海を挟んだ対岸に位置するアルバニアから移住してきた父祖の伝承、そして自身のルーツと想い人を求めてカラブリアからアルバニアへと渡ったその子孫、そして現代に生きる若者たちに至るまでの血の系譜が時制を入れ替えながら語られていきます。つまりは、作者お得意のプロット・物語作法が展開されています。

 

三世代の語りをつなぐ存在であるモザイク工房の主「ゴヤーリ」(「金の口」の意を持つ言葉のようです)と本書の若き主人公(と言ってよいのでしょうか)であるミケーレとの間にある微妙なずれや距離感のようなものが、うまく一体になって解消されたときに『風の丘』(2012年)が完成するのだろうかと感じられました。興味の尽きない作家で、引き続き彼の作品をフォローしていきたいと思います。翻訳刊行が途切れず続くことを願っています。

 

【満足度】★★★★☆