文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

トマス・ネーゲル『どこでもないところからの眺め』

トマス・ネーゲル 中村昇他訳

『どこでもないところからの眺め』 春秋社

 

トマス・ネーゲル(1937-)の『どこでもないところからの眺め』を読了しました。論文「コウモリであるとはどのようなことか」がつとに有名なアメリカ哲学界の重鎮のひとりですが、本書はコウモリ論文のいわば詳述編とでもいえるような、「主観」と「客観」という古典的な問題を巡る生きた思索を展開した書籍であるといえます。

 

問題の在り処を明らかにするための著述を省略することができないため、どうしても冗長になってしまう部分はあると思うのですが、認識論、存在論、自由、価値、倫理の問題など、広範にわたる哲学的トピックについて鋭い考察が行われています。私たちを中心としない世界のなかで他ならぬ私たちの居場所を求めるという問題意識は、やはり哲学的な思索の原点と言えるのではないかと思うわけですが、そこに正面から切り込む潔さというものを強く感じる読書体験でした。

 

【満足度】★★★★☆