文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

アントニイ・バージェス『時計じかけのオレンジ』

アントニイ・バージェス 乾信一郎

時計じかけのオレンジ』 ハヤカワ文庫

 

アントニイ・バージェス(1917-1993)の『時計じかけのオレンジ』を読了しました。本作はイギリスの作家・評論家であるバージェスの作品としてよりも、スタンリー・キキューブリックによる映画作品としての知名度の方が圧倒的に高いでしょう。文学作品としては文体の特徴が際立っていると思うのですが(ロシア語の影響を受けた英語による「ナッドサット語」といわれる人工言語が全編にわたって展開されます)、プロットに潜む暴力性から敬遠してしまう読者もいるのかもしれません。

 

規範からの逸脱というよりは、規範というもの自体を無力化してしまうような登場人物の姿は、人間存在や社会の核心部分を揺るがすパワーを持つはずのものだと思うのですが、そのことを表現するための器としての本作が、読者である私の前に説得力を持って立ち現れているかといわれると、少し物足りなさも感じられるのでした。

 

【満足度】★★★☆☆